65 / 186

episode.4-4

「――おー!お前…お前バカ、電話出ろよ!」 中央館の廊下。 転がる様に駆けて来た派手な男に戸和は振り返った。 昼時で人も多い中、良く通る男の声が視線を吸い寄せる。 戸和だ。法学の。 ギャラリーは渦中の人物に気付いてざわめいた。 「俺がぼっち飯になるだろが!」 「何だ、居たのか」 「携帯くらい見ろや。課題教えてやらんぞ」 携帯? 戸和はふと上着に手を伸ばして動きを止めた。 「…会社」 「あ?何?忘れた?お前が…?おい大丈夫か、バッテリーか?そろそろ動力元お取り換えの時期か?」 「はっ倒すぞ」 友人・磯辺は首を傾げて戸和の背中を調べ始める。 しかし直後、彼は衝撃に吹き飛んで廊下へとダイブした。 「うっそー!!来てたの?やだやだ、久し振りー!」 「は…鼻折れた」 「今日試験だもんねー、良かった―早起きして!」 これまた派手な女生徒が現れ縋り付く。 砂糖を多分に乗っけた声を出し、小首を傾げて覗き込んだ。 押し退けられた磯辺は、這い蹲りながら声を荒げる。 「こらブス!太い脚出すなや、視界の暴力だろ!」 「え、何?居たの磯辺。きもっ」 「おい戸和、そんな枕営業のキャバ嬢相手すんな」 「ちげーし。心奈の実力だし」 金髪を後ろに掻き上げる。 戸和は我関せず社用携帯からメールを返していた。 このつけ睫毛アイプチ女。 磯辺は鼻骨を押さえ眼光を鋭くする。 喧しい一帯に、人波が自然とその場を避ける。 周囲が食堂の席取りへと急ぐ中、両者は未だ廊下で睨み合っていた。 「磯辺、置いて行くぞ」 毎度のやり取りを放ったらかし、メールを終えた戸和が歩き出す。 「「あ、待って」」 綺麗に重なる2人が舌打ちした。 心奈は無理やり戸和の腕を取るや、早々に隣へと滑り込んでいた。

ともだちにシェアしよう!