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episode.4-5

「戸和っちさー、ハチと別れたってマ?今空いてる系だよね、心奈立候補するから!よろしく」 「あーあ…休み明けで篠ちゃんの試験にギャル女て無いわー」 「はあ?自分の顔鏡で見てみたら?全然心奈のこと言えないんですけど」 振動に気付いて、再び戸和は携帯を取り出した。 液晶に表示された名前を見て目を瞬く。 急いで応答するや、反して常の能天気な声が返って来た。 『あ、戸和くん戸和くん元気?元気もりもり?』 「萱島さん、御用件は?」 『…いや実は昨日、お前携帯忘れて帰ったみたいだからさ。俺半休だし、届けに来たんだけど…』 「はい?」 戸和は階段の最中で脚を止めた。 隣をキープしていた心奈のヒールが滑る。 つんのめる彼女の腕を掴まえれば、心奈の頬が面白い様に染まった。 『大学がこんなに広いとは思いませんでした』 「…今何処ですか」 『此処は何処だ。滝がある。おい凄い、校内に滝が』 「そこに居て下さい」 通話がこと切れる。 宣言通り大学にやって来た萱島は、デジャブを感じて携帯を意味深に見ていた。 恩着せがましくやって来たものの、どうも却って迷惑を掛けている。 まあ良いか。 楽天的に萱島は目前の滝を仰ぎ見た。 青々と茂る枝葉を飛沫が濡らす。 中央には緑地帯まで広がっていた。 聳え立つ本校舎は城の様だった。 都会の一画に切り離された学び舎に気圧され、萱島は建物に踏み入れる以前で立ち尽くしていた。 「…まるで一国のようだ」 侵入は容易だったが。 緑地帯では学生がバドミントンに興じていた。 不思議な空間だ。 平和を絵に描いた様な光景、世間とは全く別の時間が流れている。 「お、こんにちはー。バドミントン興味あんの?」 びっくりして面を跳ね上げた。 表現し難い髪色の青年が、ひょろ長い上体を屈めていた。 本来学生しか存在し得ない世界の青年らはフレンドリーだ。 萱島は何と答えるべきか考えあぐねた。

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