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episode.4-7

「あー、待ち合わせだもんね…じゃID教えてよ。また連絡するから」 「お前とは2度と接触しない」 「何それ何それ、なんで嫌われちゃったの俺」 大学生のコミュ力ってヤバいな。 明後日の方向に顔を背けて素直な感想を抱く。 アイツら普段人を煩わしそうな目で見やがって。 こいつを見ろ。自分なんて可愛い方だろ。 いややっぱり明日からもう少し謙虚に生きよう。 嫌われようものなら、哀しみに人生の辞表を書かねばならない。 「萱島さん」 さて、満を持して救世主は現れた。 萱島の顔色がぱっと光り、其方へと移った。 「戸和!」 「げっ…待ち合わせって、お前かよ…」 学生が青褪めて萱島から距離を取る。 知り合いなのか。 ただ反応は余り芳しく無かった。 「何…どういう関係?友達?」 「お前に関係無いだろ」 「無くねえよ、こっちはさっきから頑張って口説いて…いってえ!」 戸和が無言で足払いを掛けた。 そしてもう一切関わる事無く、萱島を引いて去っていく。 「あっ…てめ、戸和この野郎…待てやァ!」 転がって喚く男を萱島は唖然と振り返った。 然れど部下に腕を掴まれ、否応無くその場を遠ざかった。 「戸和くん?あれ友達…良いの?」 「気になさらないで下さい、それより萱島さん…まさか本当に俺の携帯だけで此方に?」 「ああそう、はい」 萱島は上着のポケットから出したスマートフォンを手渡した。 受け取った戸和は複雑な表情だ。 珍しい。 部下の反応に萱島は首を傾けた。 「ごめん…逆に迷惑だったな」 「いえ助かりました、ありがとう御座います」 率直な感謝の言葉に息を飲む。 情けない事に初めて礼を言われた気がした。 反応に困り、萱島はつい視線と共に話題を逸らしていた。

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