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episode.4-10
食堂を後にした2人は緑豊かな校内を散策した。
秋の風が心地よく髪を攫う。
裏の庭園を見渡すベンチに腰を下ろし、萱島は隣の部下を見やった。
今日の彼の雰囲気は、心なしか柔らかい。
「…講義は?」
「もう帰るだけです。何か買ってきますので、其処動かないで下さい」
戸和は十分に釘を刺してから立ち退いた。
いつも思うが、5歳児か何かと勘違いされている。
遠退く後ろ姿を眺め、目を眇める。
あいつパドローネのブーツなんか履いてんのか。
上着からは最新型の音楽プレーヤーが覗く。
洋楽かなと考えて、ふと萱島はプライベートの彼を何ら知らない自分に気が付いた。
(…そもそも初めて会ったのか)
戸和は綺麗に公私を分けていた。
此方と向こうと、明確な線引きをする人間だった。
前傾姿勢で頬杖を突き、地面の蟻を追い掛ける。
気になって仕様が無かった。
何の曲を聴いているのか。
休日には何をして、どんな友達と何を話すのか。
牧に以前、揶揄された言葉を思い出した。
「恋…」
呟いて項垂れる。
まじか。完全にそれは、一種のネタだった筈が。
いや無い、無いだろう。
目前の整備された庭園を睨め付ける。
コスモスの中を1組の男女が歩いている。
手を繋いで、やけに顔を近づけて。
世の一般的なカップルの様相。
(そう、別に…ああなりたい訳じゃ)
そうこうしてる間に部下が帰って来た。
面を上げるや、今日も珈琲缶を手渡された。
「ありが……ん?」
隣に掛ける青年を見詰める。
「何ですか」
「戸和くん、これ砂糖入ってる」
「そうですね」
素っ気なく返された。
萱島は意図を探ろうとして失敗し、早々にプルタブを引いていた。
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