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episode.4-15
護符のように銃を抱き締め、部屋の隅に蹲いた。
目が覚めようが何処に居るかも認識しない。
萱島はただ影から逃げ続けていた。
ぞっとする寒気に戦慄く。
目を塞いでも、瞼の裏へ影は焼き付いている。
悲鳴から耳を塞いで、這い蹲る。
部屋は闇に塗れた。
夜が訪れていた。
懸命に今をやり過ごそうとする手前。
扉が、音を立てて口を開いた。
「――っ!」
驚愕してCZの銃口を向ける。
人影が一つ。
喘鳴し、肩を震わせる。
ぶれるサイトの向こう、突如闇が消し飛んだ。
部屋の電気が灯り、一転間抜けなほどの黄色へ包まれた。
夢の様に急な場面転換。立ちはだかる新たなキャストは、存外に優しい声音を持っていた。
「お早う、会うのは初めてだったな」
肩を上下させ、憔悴した瞳が収縮する。
突きつけられた銃口にも何ら動揺しない、声は聞いた例があった。
彼は入口付近の椅子に掛け、ゆったりと脚を組む。
徐々に銃身が下へ垂れ下がった。
「RIC代表の神崎です、宜しく。これ以上近付かないから安心しろ、俺も君のお父さんも」
理性が矢庭に浮上した。
父、という単語に萱島はその手から銃を滑り落とす。
「そもそもお父さんは亡くなった…と言いたい所だが、生きているんだな君の中では」
さて何がしたいのか、神崎は棚から薄い洋書を引き抜いた。
そうしてもう相手から興味を外し、視線を落として読み始めるではないか。
呆然と置き去られつつ、萱島は自分の世界を作る男を見据える。
つまり此処は、彼の家だ。
此処は、自分の家では無い。
落とした拳銃を取り上げ、暴れる動機を落ち着かせる。
幾分思考回路が冷め、萱島は座る雇用主に何かを訴えようとした。
「…萱島くん?」
が、其処で違和感に喉を押さえ込む。
宙を睨む部下の異変に気付いた。神埼は洋書を仕舞い、据え置いた場から立ち上がっていた。
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