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episode.4-16

早朝の本部。間宮は牧の通達に目を剥いた。 次いで額を押さえ、苦虫を噛み潰した様な面で床を睨む。 「お前…全然何言ってるか分かんねえけど」 「だな、俺もだ」 出勤直後、主任の長期休暇を告げられた。 然れど原因は不明瞭だった。 間宮は息を吐き、表情の読めないリーダーへ肩を竦める。 「まあ要するに未だ復帰の当てが無いんだな」 「そうらしい」 「それは理解したが…話せない、ってどう言う事だ」 「さあ」 遠くを眺める牧が呟く。 「去年の渉みたいなもんじゃない?」 間宮の脳裏に塞ぎ込む少年が蘇った。 記憶の泥沼に埋もれ、溺れた様相。 息が出来なければ、無論声が出るべくもない。 「…うん、まあ了解」 片手を上げて話は終わった。 スクリーン直下の机に視線を飛ばす。 もう直ぐ始業だと言うのに、2つ目の席すら空いていた。 「で、戸和は?」 「知らんけど、またあの部屋じゃないの」 あの部屋とはかの捕虜が眠る部屋だ。 姿の見えない時、決まって戸和は其処に居た。 例に倣って今日も。 管の通された男の隣に掛け、青年は波を紡ぐモニターをただ眺めていた。 「副主任」 己を呼ぶ声に、戸和はついと視線を上げる。 何時の間にやら、大柄な黒人の調査員が入口に立っていた。 「いやはや、当番の私より早くいらっしゃってるとは」 ウッドはジェームズの点滴を交換に現れた様だ。 手際良く、戸和の傍ら作業を始める。 「この部屋が妙に落ち着くのは、私めも何となく存じます。しかし副主任…余計なお世話でしょうが、もう少し同僚にも歩み寄って良いのでは?」 少し長く生きた男は、冗談めかした口調で言った。 言葉を返す事も無く。 戸和はただウッドの作業を見守っていた。

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