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episode.4-17

「貴方様の一線は些か…太過ぎる様に思います。確かに、彼らの傷には立ち入れない部分があるのでしょうが」 モニターの機械的な音が淡々と響く。 それを背後に、ウッドの声が優しく流れた。 「何かをやって後悔するよりも、何もせずに後悔する方が、よっぽど深い」 ウッドは作業を終え、側にかける青年を見た。 静かに瞑目するや、戸和は漸く口を開く。 「…そうですね、仰る通り」 然れど伝わっていたのだろうか。次に開いた黒真珠の瞳は、現在ではない、何処かまるで遠い。 「いつだってあの時、引き止めていれば良かったと」 「あの時?」 「…いえ」 此方の話です。 告げた青年は立ち上がり、上着を翻して部屋を後にした。 日差しの中、膝に顔を埋めていた。 あれから数刻が経ち、萱島の混乱は徐々に収束し始めていた。 そうして差し込む陽にはっとした。 俄に立ち上がるや、3冊目の洋書に手を出した神崎へ走り寄る。 「…おい何だ、どうした。びっくりするだろ」 慌てて転びそうな部下の腕を掴まえた。 未だ震えつつも、萱島は何か訴えようと煩悶している。 もどかしい。包帯に巻かれた手が、神崎の腕時計を掴まえた。 「時間…」 首を傾ける。 視線を彷徨わせた後、萱島が今度はネクタイを引っ張った。 「お前…っ絞まる…ああ何、会社?」 神崎の台詞に頷く。 必死な萱島と対照的に、相手はぼんやりと言った。 「まあ…自宅勤務だな。今日も明日も明後日も当分」 ネクタイを掴む力が抜けていく。そもそも、その状態で何が出来ると言うのか。 諸々の指摘は殊勝に引っ込め、神崎は部下の手を調べ始める。 腕も酷いが指先も酷い。 卸金を素手で引っ掻き回したレベルだった。 「うーわ…暫く手使うなよ、分かったな」 痩せた身体が床へと落ち込んだ。 怠いのか、その場でまた蹲ってしまった。

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