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episode.5-2

「俺のロジックボム見に来たんだろ!」 「お前、またマルウェアなんか作…おい孝司…!渉めっちゃでかくなってる!」 「そりゃ成長期なんですから身長くらい伸びますよ」 正月に来た親戚の叔父さんか。 間宮は呆れて喧しい一画に突っ込んだ。 社長の存在を認め、次第にメインルームがざわめき始めた。 なんせ、ほぼ1年ぶりの邂逅だ。 (主に副社長が吹聴した)噂では世界周遊旅行に出掛けたと聞いていたが。 「…本日の御用件は?」 「ん?ちょっとお前らと、戸和君に会いに」 間宮が無言で前方の席を促す。 雇用主は渉を下ろすや、変わらずクールに書面を見詰める青年の下へ歩を詰めた。 「戸和」 青年が漸く面を上げた。 部下は書類を脇にやり、律儀に姿勢を正して向き直る。 「お久し振りです神崎社長」 「ああ、元気か?」 「お陰様で。貴方の望み通り、奴僕に近い生活を送っている」 神崎は笑った。この経営者は存外に性根が歪んでいた。 「近々人を増やそうと思ってるんだが…お前は?どんな犬種が欲しい」 「そうですね。幾ら扱き使おうと文句を言わない、ドーベルマン辺りを」 黒い涼しげな双眼が細まる。 些細な違和感を感じ、神崎は表情を引っ込めた。 「今日は俺を叱らないのか」 「あれは…貴方が差し向けたパフォーマンスでしょう」 「お前は時々聡過ぎて扱いに困る」 実はさして用もない、実りもない会話を切り上げる。 「選考の件、また連絡する」 言うや、早々に背を向けて立ち去った。 雑談に来た男の真意が読めず、青年は暫し皺の無いスーツを睨め付けていた。

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