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episode.5-3

「もう話は済んだんですか?」 神崎の進行方向、今度は珈琲を手に牧が居た。 歩みを止めるや、雇用主は開口一番要求を投げる。 「おう、牧。エロゲ貸してくれ」 「なんか最近アンタら、俺の事○MMかなんかと勘違いしてません?」 相変わらず表情の見えないキャップリーダーは珈琲を啜った。 心なしかゆったりと構える相手を観察する。 忙しい訳ではなさそうだ。神崎は首を傾けていた。 「アイツ何で微妙に機嫌悪いんだ」 「戸和ですか?悪い?…俺には普通に見えましたけど」 「単に俺が嫌われてるからか」 「ああ」 何がああだ。 久々でも変わらぬ応対に、いっそ清々しくなる。 「そういや…萱島さんは元気ですか?」 此方を見ない牧が切り出した。 珍しく、少々聞き辛い事の様に。 「元気だよ」 「そうですか…今は、1人で家に?」 「まさか。俺より子供の扱いが上手い奴に預けて来たから問題ない」 確かに主任の精神年齢は中学生レベルだが。 違和感の残る表現に、今度は牧が首を斜めにして疑問符を浮かべていた。 「待て、火に近付くな…お前は前科がある」 キッチンを歩く萱島の腕を掴まえる。 尚も興味深そうにコンロを見詰める相手に、本郷は懸命に代替品を捜した。 「…そうだ、テレビ」 はっとして片手でリモコンを探り、電源を入れる。 無駄に100インチもある液晶に川が流れた。 途端に飴色の目が標的を移した。 やっと危険物から離れた姿に安堵する。 本郷が手を離すや、ふらふらとリビングへ寄って画面の前に座り込んだ。 「何か、生き物飼ってる気分だな」 カレーを温めながらぼやく。 りんごとチョコレートとはちみつと。考え得る甘い物は全てぶち込んだ。 昔、興味本位で栄養士の資格を取ったが…これは。 本郷は糖分過多な液体を掬い、味見を躊躇した。

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