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episode.5-6

(人の死に際を間近で見た目をしている) 「…君、ウチの者が済まないね。財布を返してやってくれないか」 青年は逡巡し、目の前で札だけを抜き取った。 そうして涼しい顔で財布を放って寄越す。 「ぶ…ぶっ殺す…」 「はははは!良かったな菱田、素直な青年で」 「何処がですか…!」 食ってかかる部下を余所に黒川は肩を震わせた。 一頻り笑った後、真っ向から目を捉えて尋ねた。 「良かったら名前を教えてくれないかな」 名刺交換であればセオリーは自分からだ。 おまけに、何処の馬の骨とも知れぬ怪しい人間。 萱島は憮然としていたものの、数秒して素直に唇を開いた。 「萱島」 「そうか萱島君、ついでに今度事務所でお茶でも飲んでおいで。金銭に困っているなら尚更、君の得になる」 如才ない笑みを浮かべる。 その男の誘いに乗っかり、萱島は後日組を訪れていた。 狭い事務所の対岸、菱田は貧乏揺すりを繰り返す。 じとりと三白眼が来客を睨めつけ、またも暴言を吐き捨てた。 「ワシ、お前みたいなガキ一等好かんわ」 我関せず紫煙を吐く。 煙草を咥える未成年に菱田は皺を寄せた。 その緊迫した空気へ、割り入る様に黒川が現れた。 いつもの読めない色はそのまま。萱島の隣へと腰を下ろす。 「良く来たね萱島君…饗しも出来ず早々で済まないが、ひとつお使いを頼めないかな」 両者、気怠げな視線を擡げた。 素人にお使いとは何事か。しかも行きもしない高校の制服を纏った、子供に。 「なに簡単だよ、荷物を受け取って来るだけだ。菱田、案内してあげなさい」 「ええ!コイツと組むんですか…?」 「大袈裟な。直ぐ其処だよ」 肩を竦めて黒川は席を立った。 菱田が項垂れ、恨みがましく喫煙する未成年を呼び付ける。 「しゃあないなぁ…ほい、はよ付いて来い糞ガキ」 「萱島です」 腰を上げ、訂正を挟んだ。 口調こそ丁寧なものだから余計に腹が立った。 菱田は鼻を鳴らして車に向かう。 2つの影が事務所を後にする。 走り去る国産車を見送り、黒川は初めて内心から笑む。 あの子供は今から、成人の儀へと旅立つ。 崩れ落ちるならそれまで。無事に越えた様なら、盃をやっても良いと決めていた。

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