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episode.5-11
「――…っ!」
咄嗟に身体が背後へと避けた。
重心を崩し、手摺からぐらりと傾く。
本郷は銃を捨て床を蹴った。
刹那の隙に駆け寄るや、萱島を思い切り廊下へと引き込んでいた。
「キーーーッ、ギギ」
割り込んだのは巨大な鷲だった。
パトリシア。俄に現れた彼女は奇しくも萱島を救い、鳴き声と共に茜空へと去る。
俄に視界が転換し、助けられた当人は未だ呆然と座り込んでいた。
「…馬鹿野郎」
本郷が竦む身を抱き締める。
息が出来ないほど、責めるみたく。
「脅かすな」
なんて傷付いた声だ。謝罪をしたくて、然れど矢張り音は出なかった。
この人はさっき、何て事を。
土壇場のハッタリだとしても、あれほど躊躇いもなく、崖の縁まで。
衝撃を引き摺ったまま、萱島は間近のシャツを握り締める。
2つの影は暫し時が止まった様に、其処に連なっていた。
光景を崩したのは、エレベーターの開閉音だった。
視線を跳ね上げ、本郷は相手を離す。
近づく足音に伴い、やがてポロシャツ姿の宅配員が駆け込んで来た。
「あっ、どうもこんばんは…2101号室の萱島さんですか?」
「…ええ」
本郷は一寸対応が遅れた。
宛名が部下だったからだ。
サインを施し、60cm四方はある箱を受け取る。
大きさに反してやけに軽い。
去っていく宅配員を見送り、本郷は未だ座り込む部下へ歩み寄った。
「萱島、お前に」
とても不思議そうな顔をしていた。
それはそうだ。
当人が此処に住んでいる事を、知っている人間の方が少なかった。
やけに小奇麗な箱を見詰め、微動だにしない。
本郷は一言断わり、代わりに封を開けてやった。
(…ギフト包装?)
隙間から覗く厳重な梱包材に首を傾げる。
次いで上蓋を開き、現れたパステルカラーに思わず動きを止めた。
箱の中からは、大輪の花束が溢れ出していた。
赤、白、桃色、黄色。
その全てに注ぐ、鮮やかな金色の光。
芳しい香りを乗せて、柔らかい宝石が揺れる。
本郷は恭しく手を取るや、そっと萱島へと花束を渡す。
落とさないよう抱え込んだ。相手はただその生命美に魅了されていた。
箱の隅には未だ何か残っていた。
名刺サイズのメッセージカードであった。
丁重に拾い上げるや、本郷は目を眇めて文字を音へと変えた。
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