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episode.5-14
「と…」
周囲の視線が吸い込まれる。
さしもの戸和も動きを止めた。
「戸和が主任泣かしたぞ!」
「何やってんだお前、子供を虐めるなよ!」
「未だ何も言って無いだろ」
湧き起こるブーイングに反論する。
部下を弁護しようと、萱島が口を開きかけた。
が、結局未遂に終わった。
肩を震わせ悄然と項垂れる相手に、青年すら珍しく焦燥を浮かべていた。
「…萱島さん、ちょっと」
手首を掴まれ、されるが儘椅子へ落ち着く。
そして早々と離れた部下を待っていると、彼は湯気の立つ珈琲を手に帰って来た。
いつも飲んでいた、牛乳6割のインスタント・カフェオレ。
知らぬ間に覚えていたらしい。
更にめそめそ泣きつつ、その優しさへ謝罪を零していた。
「戸和、ごめん」
変わらず床を向いたままだろうが、至って温かい視線が飛んで来た。
「お花もありがとう」
「…いえ」
戸和は戸和で大人しい相手へ口を噤み、珈琲を睨む。
牛乳はうんと足したが、仕方ない。
引き出しを開け、以前に没収した砂糖を摘み出す。
1、2本。
WHOが推奨する摂取目安は25g。
仕方なく3本目を入れ、掻き混ぜた物を奥へと追いやった。
「はい」
「……」
「萱島さん」
何時まで泣いているのか。
呆れて手を伸ばし、洪水の様な目元を拭ってやる。
萱島が漸く顔を上げ、コップへ興味を示した。
一口飲み、その懐かしい味につまらない荷が降りていた。
「お帰りなさい」
少々雑に頭を撫でてくれる。
底知れない青年の思いやりに、ドア前まで逡巡していた件が馬鹿らしくなる。
「……帰りました」
鼻を啜り、ぽつりと返事を溢した。
静観していた周囲は、やれやれとばかりに嘆息して業務へと戻り始めた。
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