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episode.6-1

千葉は流れ落ちた紙を拾い上げ、瞬きをした。 報告書を印刷したつもりが見事に白い。 取り敢えずトナーを確認し、ケーブルを確認し、給紙トレイも開けてみた。 しかし何ら異常はない。 「どうした千葉」 肩に重みが加わった。 萱島が腕を回して覗き込んでいた。 「コピー機が仕事しないんですけど」 「何?詰まった?切れた?」 「や…多分、もっと内部の問題かと」 「分かった。ちょっと下がってろ」 大人しく千葉が距離を取った。 然れども、難しい表情で動きを止めた萱島に首を捻った。 「何やってんですか?」 「いや…お前には黙ってたんだが俺、一昨日の第2レースで3連単当てたんだわ」 「な、何ですって…!」 千葉が裏返った声を捻り出す。 よもや連単を的中させるとは。配当は優に万単位は来る筈だ。 「遂に俺の力は覚醒した。千葉、今からこのコピー機に俺の霊力を分け与える。コピー機は蘇るのだ」 「で、でもそんな莫大な力を使ったら主任が…」 「世界が平和になるなら安い犠牲さ」 「あ…あんたって人は」 千葉がコピー機の前で涙を拭った。 何故か職員らは、その背景に夕陽を見た。 「おい戸和、お前が甘やかすから3日で元に戻ったぞ」 一方、前方の責任者デスク。傍観していた間宮がぼやき、サブチーフの肩へと押し掛かる。 元に戻ったと言ったが間違えた。 正しくは悪化した。 「あの可愛い主任は幻だったのかな…そうだよな、俺がペンを拾ってやっただけでありがとうと頬を染めた、あんな可愛い主任が居る訳なかったんだ」 「……」 「…そう、お前の言いたい事は分かる。千葉が休み明けで出勤してきた所為だって言いたいんだろ。違うんだよ、良いか。俺が思うに一番影響力があるのはお前だ」 間宮が年下の両肩を握り締める。 変わらず戸和は自分のパソコンを見据えていた。 疲れている際の彼は、基本的に業務外の用件で構ってくれない。

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