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episode.6-2
「力を貸してくれ戸和、もう一回俺好みの主任を取り戻してくれ」
「……」
「…すまん間違えた。あれじゃ仕事にならんから何か言ってくれ」
戸和が漸く面を上げた。
ちらりと視線が件の2人へと移る。
酷く億劫そうに立ち上がり、彼は直に上司の下へと向かった。
気配を察した千葉が口を噤む。
コピー機の背後から静かに影が落ちた。
霊力を集約させていた最中、萱島は戸和に二の腕を掴み上げられた。
「萱島さん、貴方の視力は幾つですか」
「おまっ…何…えっ?視力、は2.0ですが…」
「此処の文章を声に出して読んで下さい、漢字が分からなければ教えます」
戸和の指先が液晶横に貼られた紙面を叩いた。
距離感にどぎまぎしつつ、萱島は両の目で文字を追った。
「…故障の際は…下記番号まで御連絡をお願いします」
「そうですね。その通り連絡出来ますか、それとも電話の掛け方から説明しましょうか」
「あ、いえ、大丈夫です。掛けられます」
「向こうの方とお話しする事は分かりますね、御不安ならマニュアル化してお伝えしますが」
「理解してます。問題ありません」
そこで急激な寒気を覚えて顔を上げた。
絶対零度の瞳が、一分の感情も無く萱島を見ていた。
「…だったら早く電話しろ」
「はい」
とても模範的な返事をした。
踵を返し、戸和は何事も無かったかの様に自分の席へと戻っていった。
萱島は直ぐさまその場にしゃがみ込み、無言で携帯を打ち始める。
最早コピー機に隠れて見えない。
塩を掛けられたナメクジのそれだった。
「…あ、どうもすいませんお忙しい所…お世話になってますー、萱島と申します…そのコピー機がですね、ちょっとエラーが出ちゃいまして」
地べたで電話する責任者を、千葉は哀しい目で見守っていた。
蓄積された不平が主任の霊力で噴出したのか、今日の戸和君は頗る機嫌が悪かった。
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