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episode.6-3
成形マクロを更新する傍ら、C班班長は次回作の素材を見繕っていた。
だが孤高のエロゲニストのこと。
主任が復帰しようがお構い無く、脳内はエロゲの件で満たされている。
(海…は前作でやったよな…やべえな夏のイベントって何だ…夏のイベント…夏のイベント…嘘だろこれ詰んだぞ、俺の発想力が貧困過ぎてヒロインが引き籠りに)
ふと袖に重みを感じて面を上げた。
上司が憮然とした表情で袖を掴んでいた。
「よう、コピー機直ったぞ牧」
「…ああ、はい」
何故自分に報告に来たのか。
意味が分からず動きを止める。
「使う?」
「……」
俺、コピーしたいとか何も言っとらん。
表現し難い顔つきの牧は、ただ生来の柔軟性から対応を模索する。
「え…いや…じゃあ、これでも写し取ってきて下さい」
手近の適当なレジュメをくれてやった。
萱島は使命感に満ち溢れた様相で引き返していった。
「リーダー…仮にも此処で一番偉い人間を雑用に…」
「しゃあねえだろ、なんかやりたそうな顔してんだから…」
事実、至極楽しそうにコピーを取る上司を見やった。
尻尾があればぶん回していそうだ。幸せそうで何よりだが、オツムも心配になってくる。
「なんか命令したら何でもやりそうだな」
牧はぽつりと呟いた。
言って置くが、決して他意は無かった。
その場に居合わせた部下が、勝手に邪な方向に解釈しただけで。
「すいません班長!トイレ行ってきます!」
「あ、おい一ノ瀬…」
何処かで見た様な光景だ。
中途半端に伸ばした手を引っ込め、仕方なく牧は1人作業を再開する。
一体奴は何を想像したというのか。
首を捻り、そろそろ寄り道は放ってキーボードを叩いた。
調査員からメールが来ていた。
件名を確認した所で、牧の口端が喜色に吊り上がる。
「萱島さん、戸和」
インカムのスイッチを入れて上司に呼び掛けた。
同時に階下の監視カメラへアクセスし、PCへ調査員の待機所を展開した。
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