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episode.6-4
「帰って来たみたいですよ、寝屋川隊長」
ほぼ全員が一様に振り向いた。
牧のラップトップでは、整列した調査員らが身動ぎもせず前へ倣っている。
視線の先には無論、デザートカラーの軍服を羽織る寝屋川が立っていた。
魅入る牧の尻目、コピー用紙の束が積まれる。
何時の間にか隣にいた萱島が、同じく画面に吸い寄せられていた。
「へー…帰還演説か、格好良いな」
間宮も既に涙ぐむ調査員らを眺める。
スピーカーから寝屋川の静かな声が流れ込めば、彼らは遂に天井を見上げていた。
この会社は何気に英語必須だ。
時折覚えの無い単語に首を傾げたが、職員等も責任者の話に聞き入っている。
「今、何て言ったんだ?」
「Semper Fidelis…“常なる忠誠を”。海兵隊のモットーだな」
液晶画面内のウッドが顔を覆った。
つられて調査員らが男泣きを始める。
熱い。
ほぼ文系の本部職員らが鼻白む。
直後に歓声が轟き、逞しい腕が天井へと突き上げられた。
「新興宗教じゃねえか…」
「きっと実直で純粋な人柄なんだろうな」
「…ずずっ…ぐすっ」
「うちの主任も号泣してますが」
「拾い食いして腹でも壊したのか?」
酷い言われようだ。
鼻を啜り、萱島は目つきを険しくした。
因みに先から、萱島は(本人談)遊んでいた訳ではない。
珍しく覇気の無い千葉と、心此処に在らずな牧に声を掛けただけだ。
可哀想な事に、主張した所で微塵も相手にされないだろうが。
確かに周囲をきちんと見ていると言えば異論はない。
納得いかぬまま牧の机から離れ、萱島は自席へと戻った。
隣の部下は電話をしていた。
電話口の相手が気になった。
いや寧ろ一挙手一投足を気に掛け、呆れた事に職場だろうが五感を丸ごと吸い取られていた。
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