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episode.6-10

「あの子が萱島くん?」 2人残された室内、御坂は可笑しそうに先のやり取りを指摘する。 「往来で銃出すヤクザが未だ居たんだね。危うく必要悪を喪う所だったよ」 「必要悪はお前だろ」 「後ろじゃなくて僕自身から逃げてたのは、君が何か話したの?」 「俺がお前の事を?何の為にだよ、知人に大量破壊兵器が居るから気をつけろとでも言うのか」 「その比喩は止めてくれる?」 神崎はほざく相手の胸元を見やった。 この男の体内には、当人が開発したBSL-4…致死率90%超のウイルスが息衝いている。 心肺停止もしくは何らかのスイッチにて破裂、半径100Mに飛散する。 御坂曰く感染する毎に進化を遂げ、蔓延すれば人は敗北するそうだ。 つまりは全人類の命運を握っている。常々、何と迷惑な存在かと呆れていた。 「お前がふらふら出歩いて、たまたま車に轢かれておっ死んだら滅亡か。公害所の騒ぎじゃないな」 「まあ其処まで単純な話なら良いけどね。そんな事よりどうしたの、態々こっちに来るなんて珍しい」 出会った当初に比べ、すっかり隙も可愛げも無くなった。 対岸に座る元教え子を見据え、御坂は無意識に目を細める。 「昨年うちに急襲を掛けた全員の身元を洗った。その上で疑わしい過去の調査対象、その周囲、全てを照合して容疑者を絞った」 話題は唐突だろうが、室内の空気は変わらない。 相も変わらず御坂は穏やかに笑んでいる。 「そう、それで此処に行き着いたんだね」 2人の視線が交わる。 渇いた室内でぶつかり、動きを止め、沈黙が訪れた。 静寂を破ったのは神崎だった。 ふと口端を緩め、要用は終えたとばかりにティーカップを取り上げた。 「…俺が未だ生きてると言う事は、組織単位じゃないな」 「哀しいね、そんなに僕が信用ならないかい」 「ただの確認だ」 深い香りを上らせる液体を味わう。 御坂はこの研究施設の頭だ。 彼を保護するSPもまた、中枢に深く介している。 もしも組織による犯行であれば、即断で神崎の眉間は打ち抜かれていた。 ともすれば、此処へ勤務する個人を疑う他ない。 ただ動機が掴めなかった。 明確な接点は自分と御坂、それのみだ。 何故RICの襲撃に至ったのか、背景が何ら浮かばない。

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