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episode.6-11
御坂と接点があると知り、何らかの機密を共有しているのではと“家宅捜索”へ入ったのか。
他人が欲しがるデータならば、例えば。
「…そのウイルス、開発に携わったのはお前だけか?」
「ん?いいや」
闇雲ながら当たりを付けて問うてみる。
御坂の背後、窓の外で何かがきらりと反射した。
「僕と、君の」
半ばで口を閉ざす。
神崎は視線を下げ、シャツに落ちた赤いポインタへ気が付いた。
「…余計な事を聞くなってか、お前は所長の癖に相変わらず融通が利かんな」
「名ばかり管理職だからね。君の言う通りさっさと本国に帰る事にするよ、まったく」
知り合いなら慣れたもので、神崎は気もなくインカムで部下と応酬する所長を見守る。
何処へ行こうが付いて回るのがこの男の警備だ。
煩わしさにカーテンを引こうものなら、この建物を出るまでに綺麗に処分されるだろう。
「そう言えばこの施設、何であの大学と同じ造りなんだ。お陰で迷わずに済んだが」
「何でってそれは君と同じだよ」
怪訝に片眉を上げた。
御坂の声色が先よりも静かに響く。
「人間誰しも感傷に負けるものでね。その癖、結局は目で見えるものを欲しがるのさ」
“君と同じ”の文言に漸く合点がいった。
RIC本部の工事を余儀なくされた後、神崎は業者へ改装でなく復元を申し付けたのだった。
塗り替えてしまえば、亡くなった職員が在籍していた過去、気配すら完全に消えてしまう気がした。
単なる感傷だろうが職員らもそれを熱望し、本部は昔の儘に蘇っていた。
「…そうか、お前人間だったんだな」
「はいはい、もう帰りな。長居してもロクな事にならないよ」
立ち上がる神崎に、御坂は自嘲めいた珍しい顔をした。
「出る時は裏からにしなさい、面倒な検問を通らなくて済む」
なら入り口もそうしてくれと言いたいが、矢張り融通は利かないのだろう。
所長は腰を上げるや、ドアへ向かう神崎を追い掛ける。
「…それと1人で危ない事も止めな。良い仲間が居るんだから」
扉を開け外へと促した。
忠告へ怪訝な目をしつつ、神崎は廊下へと上着を翻し去って行く。
無能な警備は、放っておけば塀の外まで追い掛けるだろう。
視線で釘を刺した後、御坂は脳裏へ子どもの様にハシャぐ男の顔を思い浮かべた。
「…どうして一目くらい、会わせてやれなかったんだろうね」
瞼を伏せる。
唯一机上へ私物として置かれていた。木枠の写真立てには、同僚と並ぶ神崎の父親が笑んでいた。
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