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episode.6-12
照明が制限された廊下を歩く。
靡いたジャケットが、かさりと音を立てた。
神崎は違和感を覚えてポケットを探り、指先に掠める紙片へ気付く。
(…御坂か?)
去り際、態々見送りに来た男を思い出す。
カメラの死角へ入るや、神崎は素早く紙片を押し広げた。
“君は何かを忘れている”
要領を得ないヒントに眉を寄せる。
キーにも満たぬメモを仕舞い、先ずは脱出すべく階段に差し掛かった。
「…!」
矢庭に真隣の非常出口が開いた。
現れた社員が脚を止め、神崎もつられて視線を合わせる。
その両眼が目一杯開かれた。
突然化け物を見たかの様に唇を戦慄かせ、相手は見る見る青褪めてゆく。
一体何事か。鼻白む神崎の手前、彼は遂にその場に崩れ落ちた。
「…あ、ああ…」
言葉にならない悲鳴が漏れる。
戦慄する男へ、訳が分からぬまま神崎は歩み寄った。
「ミスターどうされました、お加減でも…」
「…っ」
男の震えが止まった。
怯えを引っ込め、今度は状況が呑み込めず身を強張らせていた。
「ミスター?」
今度こそ訝しげに神崎が問う。
社員は汗を伝わせ、一寸視線を床へと投げた。
そうして漸く落ち着いたのか、乾き切った口をどうにか動かし始めた。
「あ、ああ…済まない…気にしないでくれ、済まない」
「いえ、必要なら誰か呼びましょうか」
「大丈夫だ、最近その…ストーカーに悩まされててね」
未だ顔色の悪い男が額を押さえる。
白衣の埃を払い、立ち上がるや一転謝罪を並べた。
「他人に過敏になってるんだ。本当に済まない」
神崎の目が白衣の胸元へと止まった。
金色のバッジは、此処での責任ある立場を示す。
「…お困りでしょう、もし宜しければお力になります」
パイプを作るに越したことはない。
そう判断し、名刺を手渡す。
受け取り紙面を確認した。彼は眼鏡の位置を戻すや、納得して神崎の事業を口に出していた。
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