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episode.6-13

「調査会社…成る程、君が所有しているのか」 「ええ、何時でも御相談頂ければ」 青い瞳は未だ紙面を眺めていた。 その視線が不意に持ち上がり、声を掛けた青年を射抜く。 「神崎遥…そうか、君…もしやバートの息子か…!」 僅かに充血し、潤んだ目が揺らいだ。 懐かしい名前を知る男に、神崎は少々意表を突かれる。 「父を御存じですか」 「ああ、勿論…私は君のお父さんと働いていたんだ。驚いた、バートから息子の話は何度も聞いていたが…よもやこんな所で会うなんて」 当人はそうか、としか言いようが無かったが。 男は一頻り興奮を述べるや、感慨深そうに握手まで求めた。 「有り難う、君なら十分信用に足る。私はロナルド・テイラーだ、また連絡させて貰うよ」 そうして一転笑みを湛えるや、始まり同様、唐突に踵を返して去って行く。 神崎は翻る白衣を見送りつつ、先のメモと合わせ妙な引っ掛かりを感じていた。 (何処かで会った…) 出し抜けに萱島の、寝屋川の問いが蘇る。 加えて御坂曰く、自分は何かを忘れている。 脳裏には僅かな接触にも関わらず、テイラーの笑みが貼り付いていた。 ともすれば彼とも、以前に会っている様な気がしたのだ。 帰社後、萱島はミーティングの為に待機所に訪れていた。 変わらず執拗に絡んでくる調査員らとガンを飛ばし合う。 いつもの小競り合いを続けている最中、俄に相手が黙り込んだ。 そうして背後に下がって道を開ける。 奥から現れたのは寝屋川で、特有の圧へ萱島は息を飲んだ。 「御苦労。来週の話か」 「あ、はい」 M4を携えた姿に慌ててレジュメを手渡す。 相変わらず存在感が凄まじい。 動作の全てがきびきびとして無駄が無く、近くに居るだけで萎縮しそうだ。 寝屋川は用意した紙束を捲り、薄眼でざっくりと把握する。 何となく隣のウッドに倣い、萱島も両手を後ろへ組んだ。 「元気か」 唐突な問いに反応が遅れる。 一寸、寝屋川が書面から視線を寄越していた。 「…物凄く」 分かり難い程度に口元が上がった。 「ところで時間が書いてねえな、どうする気だ」 「其処は検討中です」 「今決めろ」 書面を叩いて寝屋川が迫った。

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