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episode.6-15

「戸和?」 声を掛けると視線が上がった。 静かな空気を壊さぬよう、足音を消して距離を詰める。 「…その、隣良いか」 「どうぞ」 腰を下ろす。 何をするでもなく、曲線を打つモニターを眺めていた部下へ倣った。 「主任、先程は手を上げて申し訳ありませんでした」 「え、いや…」 そうすると、急に青年は謝罪を寄越していた。 内容共々、その真摯さへ思わず鼻白む。 「過ぎた話は良いだろ…それより、彼が」 今は用件で誤魔化そうと、眠るジェームズの横顔を見据える。 萱島はそのあどけなさに驚き、閉口した。 考えていたよりずっと年若かった。 もしかすると、隣の部下とそれ程変わらない。 この部外者である筈の青年が、必要以上に感情移入する訳を知った気がした。 「どちらにせよ後1ヶ月だそうです。身寄りが無いなら最後まで、此方が責任を持つべきかと」 「ああ…そうだな」 何時になく重苦しい空気が流れていた。 冗談を言う気にもなれず、萱島は所在無く手を組んだ。 「…お前の落ち着く場所が無くなっちゃうな」 ぽつりと零す。 戸和は不思議そうに上司を見上げた。 「俺は…お前のストレスを増やしてばかりだし」 「そんな事はありませんよ」 「いやお前が弱音を吐ける位、頼れる存在であるべきなんだ。本来は」 上司は偶にふらりと現す、真剣な表情を湛えていた。 「今の俺はその…みんなに助けられているだけだから。特にお前は優しいし、直ぐにフォローをくれるだろ」 「優しい?稀な意見だ」 「…冗談言うなよ戸和」 組んだ手元を見たまま、萱島の口端が綻んだ。 「全員に聞いたら全員がそう答えるよ」 本音からそう言った。 少なくともこの会社で、悪く思う存在が居る筈無かった。

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