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episode(7-0-2)
「…なあ、いっそお前からって事にして渡してくれないかな」
レポートの末尾へコメントを記入していた、御坂の手が初めて留まる。
「それでさ、反応だけ教えてくれよ。喜んでたかどうか」
「バート」
誓って語尾を荒げた訳でもないが。
何処か窘めるような色へ、バートは困り顔を浮かべていた。
「人を小間使いにするのは止めな」
「おっ…いや、まさか天下の御坂康祐を小間使いになどと」
落ち着かず腕を広げたり閉じたり。
気不味そうにしていたかと思えば、お次はいきなり声音を跳ね上げた。
「そうだ!あれはどうかな、俺の鳥!」
「何…パトリシアの事?」
脳裏へ馬鹿でかい鳥を浮かべ、溜息を吐く。
彼女はカタシロワシのメスだ。
山中で兎を追う生活でも無かろうに、そんな猛獣をどうしろと言うのか。
「猛禽類は雛からの刷り込みじゃなきゃ無理だよ、特に君の邪魔な鷲…」
「いやいや問題ない、俺の息子なんだから」
止めておけとは言いたいものの。嬉しそうな友人に、今度こそ水を差すのも憚られる。
「…そうだ。写真撮って来たよ」
「え?」
結局新たな話題で遮る事にした。
機敏に振り返る男へ、御坂は自身の携帯を差し出した。
ところが写真、という言葉に臆病から動こうともしない。
反応へ痺れを切らした御坂は、半ば無理矢理相手の手中へ握らせた。
「いや…その」
困惑する男の手は震えていた。
そうして恰も見てはいけないものの如く、酷い薄目で画面を垣間見る。
「…これ…遥か?」
淡白な様で、ただ率直な。
子供の様に無垢とも言える反応を前に、御坂は素気ない肯定を投げる。
灰色の瞳は瞬きもせず、じっと液晶画面を見詰めている。
所感すら内に仕舞い込み、静寂の中、一人何時までもその場で動きを止めて。
さて秒針が何周したのだろう。
風が冷め始めた頃合い、彼はようやっと言葉を発した。
「…そうか」
御坂が苦労して撮った、仏頂面の少年。
その可愛げのない顔が、彼にとってどれ程愛おしかったか。
「……っ大きくなったなあ…」
目を覆う男を、直視は出来なかった。
水滴が溢れて床を濡らそうが、他人には何ら助けてやれる術はなかったのだ。
彼らはどうしてこれ程近くに居ながらも。
廊下を数本隔てた先に巡り合わせながらも、一目会えない事があるのだろうか。
会わせてやりたかった。
相対してどんな言葉を受けようが、この親子は正しく対話を重ね、和解へ辿り着ける筈だった。
「何時まで泣いてるのさ、人に仕事放り投げて」
そうだ。君の信じるロゴスならば、今にきっと救いの手を差し出すだろう。
何故なら君はこんなにも、損得勘定と無縁の愛を持っているのだから。
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