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episode.7-2
「いい加減にしろ」
背後のソファーが軋み上げ、今度こそ眠気が吹き飛ぶ。
視界がいつも以上に暗い。
遮る部下の身体へ、妙な汗が出ていた。
「あ、牧…」
「犯すぞ」
恐い。
あと両手が痛い。
最早金縛りに近かった。
沈められた萱島は黙り込み、見下ろす剣呑な瞳から逃避した。
「服は」
「…着ます」
嘆息すると同時、怒気を引っ込める。
開けた視界、牧はもう常の気怠い彼に戻るや首を鳴らして去っていった。
「アサシンかあいつ…」
到頭本部のお母さんを怒らせてしまった。
その切替の早さ共々、恐れから顔を青くする。
萱島はもう大人しく救助されたスラックスを掴み、脚を通し始めた。
背後で机上の携帯が振動し、何やら電話が来たと呼んでいた。
「…はい、お疲れ様です」
肩に挟みつつ、立ち上がってベルトを締める。
因みに着信元は雇用主だ。
自分がこんな所で雑魚寝していた原因、社畜を量産する諸悪の根源だ。
「今?ああ…会社ですけど。泊まっていたので」
PCのスリープモードを解除し、前方のスクリーンを下ろす。
ついでに片手間ながら、朝礼の内容を頭の中で組み立てた。
さあせっかくの朝だというのに。
不健康な一室に、バーチャル陽光でも欲しくなる。
「下に…成る程」
相手の台詞に一寸手が止まった。
牧が主電源を入れ、機器が起動し出していた。
「いえ、行きます…」
つい大して考えもせず、即答した。
中途半端な姿勢で固まる萱島を他所に、メインルームはちらほらと職員が出勤し始めている。
電話は例に倣って突然切れた。
萱島は舌打ちするや、沈黙する携帯を睨み付けた。
「畜生が…何だあの人は、勝手に切らんと死ぬ病にでも罹ってんのか」
「ややっ萱島さん、本日もご機嫌麗しく…」
「お、海堂。珍しいこんな時間に…」
朝から元気な声に振り向く。
何故だろう。彼は道中で盛大に鼻血を噴き出してしまった。
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