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episode.7-9
「俺もママに言い付けて良いんだな」
スーツを纏う綺麗な男を認め、パクパクと口を開閉した。
本郷は本郷で、すっかり眠気が吹き飛んでしまった。
眉間に皺を刻んで前髪を掻き揚げる。
そうして遠巻きに佇む集団を目で威嚇した。
「すいませんね、コイツ引き取りますんで。お帰り願えますか」
「お?何の権限があってお前…」
「うるっせえな、俺の娘だよ。殺すぞ」
「なっ」
集団は一様に固まった。
少女を抱き上げ、嘆息してその場を後にする。
べーっと憎らしく舌を出す頬を軽く抓った。
痛いと暴れる少女を捕まえ、本郷は真正面から叱責した。
「ばっか…あんな如何にもなオッサンに付いて行く奴があるか!分別つかないなら1人で遠出するな、分かったな!」
「…だって、服買うお金くれるって言うんだもん」
「何?金って…千鶴に貰った小遣いはどうした」
「そう聞いてよ…!パパに貰うお金、全部新しい彼氏にあげちゃうんだよ。ほんとサイテー。美咲その彼氏も好きくないし、パパの方が断然かっこいいし…」
わあ。やけに高額をせびるようになったと思えばそれか。
本郷は嘗ての妻に呆れ、彼女とゴールインを選んだ過去の己に呆れた。
流石に娘が可哀想だ。
ただ親権も向こう持ちで、勝手に匿う訳にもいかなかった。
「ねー、パパ…美咲家帰りたくない。パパと一緒に暮らしたい」
「それは俺も千鶴にお願いしたんだけどな」
「親権って奴でしょー、いいじゃん美咲が言ってるのにさー…何で?何で変えられないの?」
性質の悪い事に、嫁は元女優だった。
親権者変更調停においても、彼女が見事な演技を魅せつけるのは想像に難くない。
そもそも親権者変更は相当の事由が無ければ、まず認められない。
勝手に引き取ろうものなら誘拐だと騒ぎ出す。
ああなんと子供が生き辛い世の中か。
「ねえパパの部屋行きたい、行こうよ」
美咲が袖口を引っ張る。
注視してみたらこの小学生、化粧までしていた。
服装もまるで子供としての可愛げがない。
何処かで目にした様なロゴが至る所に躍る。
そりゃ服代も嵩むに決まっている。
子は親を見て育つ。
その言葉が今、痛いほど身に染みた。
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