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episode.7-10
急遽午後休を貰い、ただ何やかんや引き継ぎをしている間に夕方になってしまった。
「…別に俺、連勤だろうが構わないんだけど」
ウチに36協定なんてものは無い。
首を回し、エレベーターを降り、萱島はドアノブに手を掛けた。
扉を開けるや、奥から何かが走ってきた。
まさかあの馬鹿デカイ鷲に続き、犬でも仕入れたのか。
唖然とする萱島の視界に、茶髪を巻いた少女が飛び込んできた。
「お帰りー!びっくりし…」
固まる相手の姿を認識し、すんと少女の語尾が消え失せた。
黒々とした瞳が此方を見詰める。
けったいな物を見る様に、萱島の眉根が寄っていた。
「…あれ、遥じゃない…誰?」
一歩退いた少女が警戒心を露わにした。
「萱島と申しますが…遥…って、ん?ご兄妹…ですか?」
「違うもん、遥は美咲の恋人だもん」
「えっ…恋人……何、犯罪…?」
唖然としつつも靴を脱ぐ。
幅広く見てもせいぜい中学生だ。
ただし格好は年齢不相応で、良く観察すれば化粧も施されていた。
「…お兄さん此処に住んでるの?」
「まあ、居候の身ですが」
「ねえ美咲も一緒に住んでいい?」
其処だけは子供らしく、彼女は純真な顔で覗き込む。
正直未だ状況が飲み込めず、萱島は答え倦ねる。
兎にも角にも、誰の関係者なのか。
「まさか社長…本当にそっちの趣味だったのか」
「パパー!なんか誰か帰って来た!萱島って人!」
「「はあ!?」」
見事に大人2人の声が重なった。
パパて。
恐る恐る萱島はリビングへと歩を進めた。
先の声で、見ずとも誰かは分かっていたが。
少女が駆けて行った先には、やはり携帯を手に立ち尽くす副社長が居た。
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