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episode.7-11
「…萱島、お前…何だこんな時間に」
「いや半休貰って帰って来たんですが…その、すみません」
思わず背を屈め、上司に纏わり付く少女を見やった。
「ほ、本郷さんの…?」
「私娘だよ。美咲」
「は……」
声にならぬ吐息が漏れた。
衝撃のフ◯イデー。
副社長の隠し子現る。
ただ少し冷静になって考えてみた所、萱島は算盤が合わない事に気が付いた。
「美咲ちゃん…失礼ですがお幾つですか」
「夏で10歳になったよ」
萱島から一切の表情が消えた。
逆算して事は11年前。
当時、副社長は…どう計算しようが、未だエロ本すら手を出すのが憚られる、盗んだバイクで走り出す年頃の筈だが。
「…何も其処まで前のめりな人生送らんでも…」
「俺も生き急いだと反省はしている」
「ねえパパ、お腹空いた」
少女が父親の袖を引く。
本郷がゆっくりと屈むや、彼女は待ち構えていた様に嬉々とその身に抱き着いた。
光景を何とも言い難い気持ちで萱島は眺めた。
何せ、結婚していた事実すら今日知ったのだ。
(しかし思春期入っても20代のお父さんか)
これは確実に修羅場が起こる。
「美咲の好きな奴作って!お願い」
「オムライスか?」
「うん…それでちゃんと美咲の名前もかいて」
しおらしく少女が眼尻を下げた。
後ろで手を組む姿がとても愛らしい。
「良いよ、ハートも描いてやる」
本郷が娘の前髪を掬い、額に口付けた。
小さな頬が瞬く間に赤く染まった。
アウトー。
傍観していた萱島が心中で叫んだ。
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