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episode.7-12

「お父さん犯罪です」 「犯…何だよお前まで…美咲、食べたら千鶴の所帰るからな」 「えー!!いやっ!絶対いやっ!今日泊まる用意も全部持ってきてるの!」 「千鶴には何も言ってないだろ」 「…だって言ったらママ駄目って言うもん!」 「なら帰らないと、アイツだって人並みに心配してる」 少女の顔が引き攣った。 小さな手が震え、眉根が寄る。 あ、泣く。 萱島が悟った瞬間、彼女は表情をぐしゃぐしゃにして甲高い呻きを漏らしていた。 「う、うぅーー…ああーー!」 子供の泣き声は凄まじい。 特に気を引く目的でなく、全力で泣くボリュームは半端でない。 本郷が暴れる小さな怪獣を抱き上げた。 幾らマセていようが、所詮小学生だった。 「うああぁ!いやあぁーーっ!」 泣き叫んで手脚を滅茶苦茶に振り回す。 呆気に取られる萱島の手前、本郷は黙って娘を抱いたままベランダへと消えた。 子供の嗚咽なんて久々に耳にした。 立ち尽くし、縁側で景色を眺める両者を見守る。 夕時の高層階は絶景だ。 父親の腕の中、少女が次第に大人しくなる。 ぐっと耳元へ顔を寄せ、本郷が何か彼女だけに伝えた。 鼻を啜りつつ、娘はもう恥ずかしそうに胸へ顔を伏せってしまった。 柔らかく背を撫でる上司を目に、萱島も先の混乱が収束し始めていた。 見る度いつも思う。 子供を宥める親の手は、まるで魔法の様だ。 (本当に、人の親なんだな) 無償の優しさが腑に落ちた。 料理が上手いのも、煙草を避けるのも。 すべてが今腕の中にいる彼女の為だとしたら。 先ほど会話の中だけに登場した、本郷の妻であった人。 顔も知らない彼女の存在を、部外者ながら少し憎らしいとさえ思った。

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