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episode.7-14
「でね、パパいっつも遥を優先するから、ママが怒ったの。帰って来ないし。遥から電話が来たら、ぴゅーってどっか消えちゃうわけ」
離婚の原因は社長だった。
いやこれは典型的な、私か仕事かの二択を誤ったらしかった。
「だから萱島さんも気を付けないと。多分ふられちゃうよ」
「ほんとに?でも萱島さん恋人居ないから関係ないわ」
「かわいそー、じゃあ美咲が付き合ってあげる」
「うわー、もう最近の小学生めっちゃ嫌」
そうこうしてる間に目前へ車が乗り付けた。
飛び跳ねる少女のため、助手席のドアを開けてやる。
車中は終始賑やかだった。
家が近付くにつれ、また彼女は愚図り始めたが。
「じゃあな、もう変な奴について行くなよ」
「…うん」
赤い目元で悄然と俯く。
頭を撫でられた後、少女は何かを吹っ切る様に駆けて行った。
道路を一本渡れば母親の家だった。
ただ近寄る事無く、娘を見送るだけの本郷に問う。
「会わないんですか?」
「ん?…ああ、去年話しに行ったら脇腹刺されたから」
とんでもエピソードに閉口した。
色々言いたい萱島を他所に、上司は座席へ背を投げ出す。
疲労の気配が色濃く、車を発進させる気配も無い
漂う沈黙にエアコンだけが唸っていた。
何と我の強い人間に囲まれ、引き摺られてきたのか。
そりゃあ交代人格の1つや2つ必要になる。
斜め後ろから整った相貌を覗きこむ。
彼自身のやりたい事は、何処に追いやられたのだろうか。
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