142 / 186

episode(8-0-1) 「reveal the truth」

C、B、D、D、C…。 名簿の隣に1つずつ、再三確認を加え並べてゆく。 それ程難しい要求をした覚えはない。 基礎的な解剖学の教本を紐解けば事足りる。 (最近の子は何かと忙しいからねえ) 勉強をまるでしない。儂が若い頃は云々。 憤る学部長の演説を思い返す。 分からなくもない。 ただ凄まじい情報の波間へと生まれた、彼らは彼らで大変だ。 かく言う御坂も、講師として壇上に立つのは片手間だった。 此処に滞在している理由は、とある研究の推進であるからして。 (おや…この観点は素晴らしい) 考察も素晴らしい客観性を保っている。 御坂は文句なしのA評価を与え、彼の氏名を目で追った。 “Haruka Kanzaki” 驚いた。日本人だ。 しかも誰もがその名を知っていた。 8つで難関医大の入学を許され、3年でその課程を修了し…幾多の大学院を渡り歩いた。 そして14歳になった現在、国内最難関と言われる本校・ロレイン大学へ彼はやって来た。 「天才少年か。凄いね、将来への架け橋が無限に見えるよ」 眼鏡を押し上げ、レポートへ激励を付け足す。 採点を終えたその日の午後、御坂は奇しくも当人と遭遇する事となった。 黄昏の頃合い、渡り廊下を横切る折。 御坂は高そうな外套を靡かせる少年を認め、脚を止めた。 煙草を咥え佇む。 一目見て件の神崎少年だと分かった。 単に、背格好の所為だろうが。 「その年で吸うと後々苦しむよ」 さっと視線だけを寄越した。 息を飲むような灰色の瞳。 はて。異国の血を識別すると同時、御坂は一寸記憶を探った。 その透ける様なアイスグレーの目は。 「別に構いません。明日死んでも良い生き方をしてる」 流暢な日本語で、神崎少年は欠片も可愛げのない返事を寄越した。 日本のヤクザが同じ事を言っていた。殊勝にも、口にはしなかったが。

ともだちにシェアしよう!