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episode(8-0-3)
神崎少年と出会い、早2年が過ぎていた。
その間もこの男は、飽きもせず息子の話をしていたのだ。
毎日、毎日。
「さっきから言ってるだろ、誕生日プレゼントだよ!プレゼント!」
「何?決まったの?」
「ああ、矢張り悩んだんだが…コイツを贈ろうと思う」
図ったようなタイミングで鷲は舞い降りた。
未だ発展途上に関わらず、子供を超える大翼が床に広がる。
くるくると回る金色の目が見上げる。
挨拶をしてはみたが。
彼女は素気無く目を逸らし、親友の元へ歩いて行った。
「血だらけになるのがオチだね」
「大丈夫大丈夫、毎日欠かさず写真を見せてるから」
「写真って…顔だけなら僕も毎日見てるけど、一向に懐かないじゃない」
「茶々を入れるなよ!」
正論と言うんだ。
口を挟みかけて止める。
男の真剣な表情に。
「…あ、いやその…康祐、俺は遥にただ…一言謝りたいんだ」
矢庭にしどろもどろとなり、立ち尽くす。
鷹揚と繊細を行き来する男は、消し飛びそうな独白を続けていた。
「それだけで良いや…高望みはしないよ、一目会えたらもう良い。プレゼントは俺が渡そう」
「何…?君、一緒に暮らしたいんじゃなかったの?」
「だって無理だろう」
背を向けた男が、淡々と叫んだ。
「自分を捨てた顔も知らない男が、今更になって、許してくれだなんて…どうやったって無理だろう!」
拳を机に叩き付けた。
鷲が翼をばたつかせる。研究室の床に、無数の羽が舞い散った。
「…すまん」
ギーギー威嚇の鳴き声を上げる。
愛鳥の前に跪き、バートは謝罪と共に喉元を擽った。
「アイツは今、きっと独りで生きているんだ」
親子とは不思議だ。
理解していた。会えもしない、息子の孤独を。
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