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episode(8-0-4)
「だからお前が側に居てやってくれよ、パトリシア」
人では無い。言葉を理解し得ない鳥は、戯けた様に首を傾ける。
バートは立ち上がり、彼女を置いて出入口へ歩き出した。
「何処へ…」
「今から会ってくる」
口を噤んだ。
並々ならぬ意思を、後ろ姿から感じ取った。
「この時間は喫煙所だったか?…俺は、もう2年も悩んだんだ、いい加減にするよ。運良くこの部屋に招待できたらこの子を渡して、それで満足さ」
建て付けの古い扉が開いた。
廊下が垣間見え、軋みを上げて閉ざされた。
その日。
結果として、バートは息子に会う事が出来なかった。
彼は喫煙所に向かう手前、何者かに拳銃で頭を撃ち抜かれた。
重度の頭部外傷。
その天才的な頭脳は全ての機能を欠き、回復する見込みを失った。
犯人は、分からなかった。
御坂は昏睡状態の親友を呆然と見た。
こんな幕引きが、許されるのか。
あとほんのもう少し、数歩の距離だった。
そんな僅かな道程が突然断たれた。
どうしても一目会わせてやりたかった。
例え意識が無かろうと。
だからいつもと同じ、喫煙所に脚を運んだのだ。
「遥君」
その頃には会えば言葉を交わす迄になっていた。
声を掛ければ、少年は器用に瞳だけを動かした。
「君のお父さん、そろそろ峠でね」
「そうですか」
「一度だけでいい。顔を見せてやってくれないか」
「何の為に?」
神崎が笑った。
いつもの作った表情とまた異なる、嘲る様な笑みだった。
「意識が無いんでしょう、無駄な事に時間を割くのはお断りだ」
「君に会いたがってたんだ、2年間毎日…恐らくそれ以前から」
「だから?俺には何の利点もない」
「それは…」
何と言ったらこの少年が動くのか。
そればかりに策を練ろうが、生憎親子の詳細など知り得ない。
肝心な時に役に立たない自分の手前、少年はがっかりだとばかりに肩を竦めていた。
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