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episode(8-0-5)
「貴方は何を吹きこまれたか知らないが、俺には良い気味だ」
留まってくれ。
踵を返す少年に腕が伸びる。
ただ有効な言葉を持たない。
御坂に言える事は何一つ無い。自分は彼ら親子に対する、何者でもない。
「――…御坂先生!」
1人になった喫煙所へ、足音が迫った。
使いに出されたのであろうTAが駆けつけ、此方へ同行を促した。
その青白い顔に、御坂は親友の先を知る。
乞われる儘に集中治療室へ向かい、廊下を過ぎる。
部屋へ近付く度ざわめきが増し、詰める幾人もの質問責めがあった。
慕っていた講師陣、学生、界隈の権威ら。人垣が押し掛け、一様にバート・ディーフェンベーカーの容体を問うている。
その群衆は好意から動くもので、彼の人徳を如実に表していた。
誰も終わりを望む者などいない。
彼自身ですら。だがまるでその必死さは、誰もが漠然と顛末を悟った様な。
「――回復の見込みがない、本人の意思通りドナーとして臓器を提供する」
御坂がICUに入るや、術後を任せていた教授が宣告した。
その場の全員、陰鬱に首を垂れ下げた。
「ご親族は?どなたか連絡取れないのか」
「…お待ち下さい」
無駄と知りつつ口を挟む。
「もう少し粘る事は」
「御坂先生、これ以上は彼の貢献の意思すら無駄にしてしまう」
無情な機械音が満たす。
誰も彼も口を開かず、陥る最期を待っていた。
御坂とてこの数週間、起死回生に向けた一手を模索し続けた。
だが針の穴は、数千の可能性を辿ろうが見つからなかったのだ。
「悲しいが苦しめず、送ってやりましょう」
時に彼の信じた神が現存するのであれば。
それが天網を張り巡らせ、経緯の一切を把握しているのなら。
この日この結末を導いた意図を、何度でも問い糾したい。
もう一歩先に合った筈の、彼の夢から断ち切った意図を。
「…バート、君」
皆が神妙に啜り泣く。
お通夜の真ん中、一人表情を消した御坂は苦言を呈した。
「遥に会うんじゃなかったの」
初秋の風が肌を粟立たせる。
親友に向けた最後の問いは、虚しく小さな空間に反響していた。
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