148 / 186
episode.8-2
「――やあ、来る頃だと思ってたよ」
書面を見詰めたまま、御坂は訪問者に先立って告げた。
季節に相応しい曇天。
研究所最上階にある私室には、歓迎されないゲストが足を踏み入れていた。
片やスーツを着込んだ本郷と、M4こそ奪われたものの、不穏な軍服をジャケット代わりに羽織った寝屋川。
RICの重役2名が、何やら物々しい顔で中枢へと接近している。
一室には瞬く間に緊張が満ちていた。
窓の外でスコープを覗く狙撃手が、出番を予期して喉を鳴らす。
「僕に用事かい?お茶でも淹れようか、ちょっと待ってね」
「茶は結構だ御坂、聞きたい件があって来た」
本郷の静止に漸く顔を上げる。
寝屋川は一見、隣で大人しくも暇そうにしていた。
「そう?それにしても…2人とも久し振りだね、元気そうで何より」
「良いからアレをどうにかしてくれ。コイツがブチ切れそうなんだ」
苦言と共に、本郷は右で欠伸するツレを指す。
アレとは即ち、御坂を護衛する狙撃手の殺気であるが。
「難しい事言うね」
「早くしろ、此処が戦場になるぞ」
「まあ…でも確かに、君達とは一度話をしなければと思っていた」
御坂の指先がインカムに伸びた。
煩わしそうな声が、彼を囲う狙撃手に指示を掛けた。
「10分席を外してくれる。それからこの2人は補足対象外、宜しく」
『承諾し兼ねます』
冷めた口調が一蹴する。
「呆れた…頭も悪い、話も聞けない、何が出来るの?君」
『御坂康祐、自分の立場を忘れないで下さい』
「良く言うよ無能」
辛辣に吐き捨てる所長へ、本郷があっと声を漏らす。
頼むからこんな所でキレないでくれ。
だがその懇願よりも早く、御坂は白衣から自動拳銃を引き抜いていた。
「…Oh」
窓ガラスが砕け散り、寝屋川が煩わしそうに片耳を塞ぐ。
貫通した銃弾が狙撃手の大腿に埋まり、彼は木の上からもんどり打って落下した。
『――な…何をしている御坂!銃を仕舞え…!!』
負傷者を目撃するや、錯乱した部下が吠え立てた。
動揺しつつも、残りの狙撃手らが今度は本郷らへ照準を向け始めた。
「待て待て、お前部下を撃つなよ…!」
「それが部下じゃないんだ、生憎」
見兼ねた本郷も文句を投げたが、御坂は何処吹く風で残弾を撃ち込み始める。
相変わらず何て意味不明な場所だ。
応戦に惑っていた狙撃手らも、端から射的の景品の如くバタバタと倒れていった。
ともだちにシェアしよう!