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episode.8-4
呑気な御坂の声に閉口した。
寝屋川なんて壁に凭れて寝ていた。
お前はさっきから、何故そんなに緊張感が無いのか。
「バートと僕はとあるプロジェクトに携わっていた。でかい件でね。あの大学から現在まで継続しているから、関係者でこの施設に転勤になった者も多いよ」
未だ困惑の渦中だが。
ほんの薄っすらと。
はっきりとは説明できないが、僅かな繋がりが見え始めた。
バートと、神崎という親子を主軸にして。
「何にしても直接聞いた方が早いよ。君が嫌なら、僕がしつこく話してみるから」
言うやいなや御坂は携帯を出した。
件の男を呼び出すや、言葉を返せない本郷に微笑む。
室内に微かなコール音が響く。
数度繰り返した後、俄に御坂が脳天気な声を発した。
「あ、遥?ごめんごめん。君今何してるの」
何時の間にか、雨音が重なり合っていた。
「仕事中?…関係無い事ないでしょ、それから君ちゃんとあのメモ…」
プツン。
10秒と待たず通話が切れた。
御坂が首だけ此方に向け、瞬きを繰り返す。
「切られたね」
「…仕事って言ったか?今日はアイツ、休みの筈だぞ」
「それは妙だ。声が聞こえたから、もう一人居るみたいだけど。あの掠れた声どうも聞き覚えがある…名前が出て来ない、ちょっと待ってね」
背を屈め、御坂はキーボードを叩いた。
垣間見える画面へ写真が連なる。
名簿でも出しているのか、中途で手が止まり、ああと納得した声が上がった。
「思い出した。多分彼だよ、ロナルド・テイラー。此処の研究員だけど、何時の間に仲良くなったのかな」
御坂は顎に手をやった。
何か思い至ったのか、纏う空気が毛色を変える。
「確かバートの元部下だ」
「何…?それで、アイツは聞き込みでもしてるのか?」
「さあね、あんまり良い噂聞かないけど…さて本郷君、悪いね」
其処で眠っていた寝屋川がぴくりと揺れた。
何かを察知したらしい。彼は俄に覚醒するや、本郷を入り口から遠ざける様に押し退けていた。
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