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episode.8-5

「もう来たか」 「……っ!」 なんたる。 鼻先を銃弾が掠める。脇に手を突いて飛び退けば、ドアが瞬く間に蜂の巣と化した。 「おい御坂!5分経ってねえぞ!」 「ごめんごめん、3分半」 何にウケたのかは知らないが、笑い出した所長が社員証をセンサーへ掲げた。 当人が付けた施錠か、蹴破られる手前のドアへシャッターが降りる。 「…まあ一旦は礼を言う、帰るぞ寝屋川」 「Sure thing, sir」 「寝屋川くん」 軍服の後ろ姿を呼び留めた。 御坂は拳銃のマガジンを換え、安全装置を掛けて相手へ放った。 「餞別。まったく…僕に当たったらどうする気なんだか。じゃあね君達、また遊びにおいで」 言うやがらりと窓を開け、どうぞとばかりに客を促す。 寝屋川が背後のドアへ牽制を掛ける中、本郷は悪態づいて窓枠へ飛び乗った。 「二度と来るか」 「あはは、率直な意見を有り難う」 「御坂、俺のM4は」 「あー…右に折れたら保管所があるから多分其処だね」 返答を聞くや否や、両者はシャッターを貫通し始めた掃射から逃げ出す。 隣接した屋根へ飛び移り、只管に敷地の枠外を目指した。 だが外堀のフェンスが見えた先、不意に寝屋川が視線を落とす。 下には検問所へ隣接した倉庫…御坂の言う“保管庫”があった。 「まさか取りに行く気かお前」 「先に帰ってろどうぞ」 会話している間にも、地上は騒がしくなっていた。 両者が同時に視線をやれば、警備が蟻の様に通路へ群がっている。 「ふざけんな!アイツの知り合いロクな奴居ねえぞ!」 「そうだな、お別れだ副社長」 「…あ、本当に行きやがった」 ほぼ4階の高さから、軽やかに飛び降りた寝屋川を見送る。 態とだろうがあれでは良い的だ。 案の定散発的な銃声が上がり、彼の方角へ見る見る連中が引き摺られていった。 まあ、アレがやられる事は先ず無い。 問題はもう1人の方だと思い直し、本郷は走りながら当人へ電話を掛ける。 何度もコール音が耳を突く。 気が急かれて時間を確認した。 18時52分。 そんなに話し込んでいるのか。電話が繋がらない例は無く、訝しげに眉を寄せたが。 (そういやこの施設、過去に依頼を受けて調査したんだったな) ふとフェンスの手前で脚を止めた。 序に御坂が話題に上げた、一見まるで関係のない神崎の父を思い返す。 否、関係ないわけが無いのだ。 あの無駄を嫌う男が話したという事は、奴も其処を訝しんでいたのだ。 「待てよ…もし仮にそうだとしたら…」 慌てて再び携帯を操作した。 何度もリダイヤルを叩く。 「くっそ、出ねえか…」 それならばと宛先を変え、本部の部下を呼び出す。 業務は落ち着いているのか、此方は直ぐに応答してくれた。

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