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episode.8-8

鬱蒼と樹木が生い茂る。 手入れされているのかいないのか。 時節柄の肌寒さと天候も相俟り、只管に薄気味の悪い道が続いた。 雨上がりの、独特の土の匂いが鼻を突く。 「足元に気を付けて。こんな場所でも気に入っているんだ、同僚には象牙の塔だと非難されたがね」 前を歩く男の姿すら、深い闇に覆われていた。 冬場の日没は早い。 さて車中の話を終えた現在、神崎はテイラーの所有する別荘に来ていた。 濡れた庭を過ぎると、視界に蔦の絡む館が浮かぶ。 テイラーは露に塗れた取っ手を引き、笑顔で客人を招き入れた。 照明の灯る屋内は存外に綺麗に保たれていた。 2階建てかと思いきや。 頭上には、教会の如く突き抜けた天井が広がっている。 「それで…バートとは結局会えたのかい?彼、君の事ばかり気にしていたけれど」 「いえ」 テイラーは神崎の返答へ、悪い事を聞いたとでも言いたげに目を伏せた。 「…そうか、それは…君も辛かったろう」 「お気になさらず、ミスターテイラー」 単調な神崎の声音は変わらない。 研究者は振り向き、薄暗い館内で足を止めた。 「君は…違っていたら済まない。もしやお父さんの事を、余り良く思っていなかったのかな」 「とんでもない。ただ深く興味が無いだけです」 「…バートを殺した犯人を追っていたんじゃ?」 「ええ、貴方にお話しした通り」 ダイニングテーブルの目前、テイラーは訝しげに立ち尽くしている。 その手が何か、また小刻みに脚を叩き始めた。 「良く分からないな。何故君が、僕と話をしようと思ったのか」 「そうお考えになるのも無理はない…大丈夫です、順を追ってご説明しましょう」 「…そうかい。立ち話もなんだ、掛けてくれ」 漆の塗られた木製のテーブルを指す。 礼を述べ、神崎は主の対岸に座した。 「実は一昨年、何者かが私の会社に襲撃を掛けました」 住処としては、余りに薄暗く広大な邸の中央。 開けた大広間には、時計の秒針と神崎の声だけが広がっていた。

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