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episode.8-9
「武装した集団が押し入り、我々は15名の部下を失いました。それからこの1年3ヶ月、虱潰しに主犯を捜し続けた。それこそ関係者の親族・交友範囲、過去の調査対象、その関連会社から何から何まで拾って」
「そんな…事が」
テイラーが手を握り締める。
ささくれだった指先は、僅かに震えていた。
「捕虜にした男の身元も徹底的に洗い、その上で幾つか当たりを付けた。最も有力だったのが貴方の勤務先、御坂康祐の所有する研究所です」
「それで片っ端から事情聴取を?」
年若い社長は笑みを浮かべる。
笑みと言うよりは、ただ唇が弧を描いただけだったが。
「動機を考えました。ウチの会社と彼処、接点は私…そして過去に依頼を受け、簡単な信用調査を行った2点のみ。しかし更に面白い事実が判明した。御坂の元同僚であるバート・ディーフェンベーカー…つまり私の父から移植を受けた複数人が、なんと私の部下だった」
「…冗談だろう」
「私もそう思いました。偶然なら身の毛が弥立つ話だ」
「い、幾らなんでも必然に決まっている…」
「必然?なら私が声を掛けたと。そういう事ですか」
「ああ、そ…」
妙に熱く前のめりになっていた。
テイラーははっと我に返るや、きまり悪そうに居住まいを正す。
「残念ながら、私がその事実を知ったのは最近でして。父はご存知かもしれませんが脳死でした。そして2人は角膜を、1人は肺を…父から譲り受けた後、本当に偶々私の元へ現れた。ただ初対面にも関わらず、何処かで会った事があるか?等と問われました。面白い話です…たかが身体の一部を移しただけで、ドナーの記憶まで有するなんて」
「ははっ、記憶転移か…事例は報告されているが、些か信じ難いね」
「私が話を盛り過ぎていると?」
「ああその様だ、君はどうも…」
またも中途で口を閉じる。
対面するアイスグレーの瞳を前に、テイラーはじっと囚われた様に固まっていた。
「…さて、話を父に戻しますが」
その様子を訝しげに見ながらも、神崎は先を続ける。
「彼を殺害した犯人は、日々自らの罪に苛まれていた。現場の状況からして計画的でなかった、突発的な事件でしょうからね。恐らく何年経とうが怯えて暮らし、疑心暗鬼になっていた。そんな折…もし、己の身辺を嗅ぎ回る存在に気付いたとしたら?」
中心は何時の間にかバートの事件へと戻る。
テイラーは挟む文言も思い浮かばず、乾いた唇を舐め取っていた。
「もしも調べた結果それが殺した人間の息子で、しかも部下には故人から提供を受けた者が複数、更に武装戦力を有していると分かれば?」
研究者の白い喉元が上下した。
薄い縁無しのレンズには、只管に前を射抜く神崎が映り込んでいた。
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