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episode.8-12
「神崎社長…!!」
理由なんて無い。
腹の底から叫んでいた。
身を乗り出し、彼が今まさに口付けようとしていたティーカップを。
懐から銃を引き抜くや、何の予断も許さず撃ち砕く。
「…なっ!」
弾け飛ぶ陶器にテイラーが怯んだ。
呆然と双方の瞳が此方を映す。
近付くな。
どうにか追いついた神崎を背後に庇う。
サイトへ男を捉えたまま、萱島は激高から肩で息をしていた。
「な、何だ…き、君は何処から」
「…沙南?」
前に出かけた神崎の腕を掴む。
殺意を垂れ流しに、萱島は目前の男に唸りを上げた。
「動くな」
テイラーの視線がマズルへ吸い寄せられる。
「指示外の動きをすれば殺す。掌を此方に向けて、両手を上げろ」
「何を…どう言う事だ?神崎君…君の部下か…?」
「沙南待て、落ち着け」
「それ以上近寄るな…!」
踏み出しかけたテイラーの脚が静止した。
トリガーに負荷を掛け、萱島の指先が戦慄く。
どうしたかなんてこっちが聞きたい。
この男が、何者かすら分からなかった。
それなのに目を貫く鈍痛が。
警鐘が一向に止まないのだ。
背筋を流れる汗が、襲う震えが。
この男を、兎に角神崎から退けねばと。
「か、神崎君…!彼を落ち着かせてくれ、早く!」
「沙南、それを俺に貸しなさい」
「アイツを縛り上げるまで聞き兼ねます!」
「沙南」
「社長…あの男を信用するな!」
悲痛な声を上げながら何もかも。
萱島自身、毫も状況を把握出来ず、只管現場はパニックに陥っていた。
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