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episode.8-13
「せめて経緯を話せ、判断のしようがない」
「君は…何をやっているんだ…?私は君の事なんて知らない上、突然そんな物を…!」
「…口も閉じろ、今直ぐ」
「いい加減にしないと警察を呼ぶよ、いきなり人の家に押し入って。正気じゃない」
この野郎。
撃ってやろうかと思った。見境もなく。
弾を放つ手前、後ろから伸びた手に銃を奪われた。
そして驚く間に身体を拘束される。
「お前の話は後で聞いてやる、先に帰ってろ」
「駄目だ!貴方を置いて行けない…」
「神崎君」
一寸、テイラーはちらりと時計に目をやった。
「…今日の所は彼を連れて帰ってくれないか、どうも私は信用されていない様だから」
微笑む。人の良さそうな柔和な表情が。
虫唾が走る。この感覚は何だ。
この男は、誰だ。
自分は、一体何を…
「まあ帰ると言っても、土になるかな」
俄に何かが目を遮り、萱島は条件反射で仰け反った。
赤い光線の様な効果が、幾つも折り重なって視界を過ぎって行く。
(どうして)
理解が追い付いた。
萱島の全身から、どっと汗が湧く。
(こんな大量に)
まるで神崎の友人へ出会したあの時の如く、2人の衣服には幾つものレーザーポインタが這い回っている。
方角も複数。
人っ子一人居ないと思い込んでいた邸へ、次第に追い切れない殺気が満ちていた。
「…社長」
「君の言葉を返そうかな、口も閉じろ今すぐ」
ぐっと空気を飲み込んだ。
神崎にも矛先が向いている以上、ひとつも勝手な真似は出来兼ねた。
一体何人の私兵が潜んでいたのか。
恰も待ち構えていたかの様な仕打ちへ、自分の心配が杞憂で無かったと知る。
「中途で飛び込んできたのは予想外だが、どうせ部下は連れていると思っていた」
「成る程」
焦る萱島を他所に、雇用主はこの展開にも平静を貫いた。
「父を殺したのは矢張り貴方か」
「さあ、どうだったかな」
ぴくりとも動かぬテイラーがとぼける。
小動物を思わせる、黒目がちの瞳が右へ逸れた。
自分を見ていた。萱島は息を詰まらせ、僅か後方へ足を引き摺った。
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