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episode.8-15
「…寝屋川隊長!?」
漸く侵入者の正体を知り、萱島の双眼へ光が戻る。
経緯は知らないが、最強の援軍が来た。
テイラーは行き交う弾へ這い蹲りながらも、無線で狙撃兵にがなり立てている。
「お前が呼んだんじゃないのか?」
「いいえ…」
神崎の疑問へ首を傾けた。
ともすれば、副社長と一緒にこの男を捜していたのではないか。
「早く始末しろ…!殺して構わない!」
一方単騎に錯乱するテイラーは、広いフロアを右往左往する。
矢先に上から空薬莢が降り注ぎ、慌ててギャラリー下へ逃げ込んだ。
天井付近では、尚も寝屋川がCQBニーリングで狙撃を続けていた。
逃げ場のない場所にも関わらず一発も喰らわない。
なにせ、実践経験に乏しい敵はパニックになっている。
安い民間軍事会社でも雇ったのだろうが。
「糞が…!」
逼迫したテイラーの声が詰る。
彼はじりじりと後退するや、遂に背を向けて勝手口の方角へ走り出した。
「…逃げる気か」
勘付いた神崎が自分の武器を引き抜き、男の行く先へ弾を撃ち込む。
柱を抉り、跳弾した。
その音へ一寸慄くも、テイラーは縺れる脚を止めようとしない。
舌打ちして追い掛けたが、既に間は十二分に開いていた。
「クソ!何時迄も何時迄も、今日になっても…!」
半狂乱になった男は、無我夢中で廊下を駆け抜ける。
「俺の邪魔ばかり、貴様はもう一度…」
もう一度。
続きを発せず唇が固まる。
俄に脚を止め、テイラーは光りの見えた手前で棒立ちになった。
自分の目指す先、不意に新たな人影が出現していた。
「…誰だ」
相手は此方に真っ直ぐ銃口を向ける。
どうやら、逃げ道は断絶されたらしかった。
苛立ちと、焦燥と恐怖と。
諸々から真っ青になる男を、またも正義感の塊の如き目が刺していた。
「…またか、バート…また俺の邪魔をするのか」
もう抜け殻と化して呟く。
何度も何度も、殺した男が現れる悪夢を見続け、10年間魘された。
そうして挙句、今度は現実にまでやって来たではないか。
既に逃げ回る事すら億劫だ。
テイラーは抵抗もせず、掌で自身の視界を覆い尽くしていた。
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