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episode.8-18
「貴様っ…は、離せ!アレは…お前の…!」
凶器をものともしない様に気圧される。
鬼気迫る相手に、テイラーは悟って鼻を鳴らした。
「は、あのガキ見てたな…オイ、どうしてやろうかバート…お前の息子…」
「何かしてみろ…お前を殺す!」
「殺すだと!馬鹿言え…俺が殺すんだよ!お前を!!」
銃口が満を持して吠えた。
衝撃を受け、バートの全身が硬直する。
「あ…」
頭部を貫通し、白衣が血液に塗れる。
幕引きは一瞬だったが。
崩れ落ちる際も、バートは掴んだ手を離さなかった。
地面に転がる人間が、ぴくりとも動かなくなる。
拳銃を携えたまま、テイラーは青褪め戦慄いていた。
「お、お前…そ、そんな、本当に…」
小刻みに震える。
殺してしまった。
惨状が、逃げ場の無い事実としてテイラーに押し掛かった。
「…見られた」
男の思考は真っ先に隠蔽に傾いた。
その上で、走り去って行った少年にはっとした。
死人の手を振り解き、凄まじい形相で追い掛ける。
汗が噴き出し、呼吸は速い。
長い一直線の向こう、漸く影が見えた。
戸惑いもなく銃を撃つ。
壁面が割れ、幾つかの調度品が吹き飛んだ。
「止まれ…止まれこのガキ!」
既に人気は無く、閑散とした研究棟を走り続ける。
もうなりふり構っていられなかった。
テイラーは銃のホールドオープンに気付くや、弾の切れた凶器を投げ付けた。
眼前を走る影が沈んだ。
意識の途絶えた少年が伏せる。
喘鳴して走り寄り、その肩を掴んだ。
「こんな、…ッこんな筈じゃ…」
汗ばむ両手が首に手を掛け、力を込める。
足音が近付いていた。
銃声を聞きつけた、何者かの足音が。
「畜生っ…!」
このままでは唯の墓穴だ。
細い首を解放し、テイラーは只管に逃げた。
何もかもから。
それから長短針が回り、陽が傾き。
倒れた少年が漸く瞼を上げたのは、夜も更けた頃合いだった。
ベッドに横たわる自分を認め、怪訝な目をする。
神崎の視界には、心配そうに見やる御坂の姿が映っていた。
「…ああ」
回想を終え、
言葉が滑り落ちる。
眼前に間違いなく。
10年前のあの日、父を殺めた男が佇んでいた。
「そうだったな」
テイラーの瞳孔がゆらゆらと彷徨った。
静かな神崎の声に、死刑宣告を受けたかの如く顔を歪める。
「思い出したよロナルド・テイラー、有り難う」
ゆっくりと距離を詰める。
じわじわと。迫り来る嘗ての少年に、
喘ぐ様に息を漏らしていた。
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