164 / 186

episode.8-18

「貴様っ…は、離せ!アレは…お前の…!」 凶器をものともしない様に気圧される。 鬼気迫る相手に、テイラーは悟って鼻を鳴らした。 「は、あのガキ見てたな…オイ、どうしてやろうかバート…お前の息子…」 「何かしてみろ…お前を殺す!」 「殺すだと!馬鹿言え…俺が殺すんだよ!お前を!!」 銃口が満を持して吠えた。 衝撃を受け、バートの全身が硬直する。 「あ…」 頭部を貫通し、白衣が血液に塗れる。 幕引きは一瞬だったが。 崩れ落ちる際も、バートは掴んだ手を離さなかった。 地面に転がる人間が、ぴくりとも動かなくなる。 拳銃を携えたまま、テイラーは青褪め戦慄いていた。 「お、お前…そ、そんな、本当に…」 小刻みに震える。 殺してしまった。 惨状が、逃げ場の無い事実としてテイラーに押し掛かった。 「…見られた」 男の思考は真っ先に隠蔽に傾いた。 その上で、走り去って行った少年にはっとした。 死人の手を振り解き、凄まじい形相で追い掛ける。 汗が噴き出し、呼吸は速い。 長い一直線の向こう、漸く影が見えた。 戸惑いもなく銃を撃つ。 壁面が割れ、幾つかの調度品が吹き飛んだ。 「止まれ…止まれこのガキ!」 既に人気は無く、閑散とした研究棟を走り続ける。 もうなりふり構っていられなかった。 テイラーは銃のホールドオープンに気付くや、弾の切れた凶器を投げ付けた。 眼前を走る影が沈んだ。 意識の途絶えた少年が伏せる。 喘鳴して走り寄り、その肩を掴んだ。 「こんな、…ッこんな筈じゃ…」 汗ばむ両手が首に手を掛け、力を込める。 足音が近付いていた。 銃声を聞きつけた、何者かの足音が。 「畜生っ…!」 このままでは唯の墓穴だ。 細い首を解放し、テイラーは只管に逃げた。 何もかもから。 それから長短針が回り、陽が傾き。 倒れた少年が漸く瞼を上げたのは、夜も更けた頃合いだった。 ベッドに横たわる自分を認め、怪訝な目をする。 神崎の視界には、心配そうに見やる御坂の姿が映っていた。 「…ああ」 回想を終え、 言葉が滑り落ちる。 眼前に間違いなく。 10年前のあの日、父を殺めた男が佇んでいた。 「そうだったな」 テイラーの瞳孔がゆらゆらと彷徨った。 静かな神崎の声に、死刑宣告を受けたかの如く顔を歪める。 「思い出したよロナルド・テイラー、有り難う」 ゆっくりと距離を詰める。 じわじわと。迫り来る嘗ての少年に、 喘ぐ様に息を漏らしていた。

ともだちにシェアしよう!