165 / 186

episode.8-19

「あ、あ…わ、私は…」 「借りを返そう」 拳が空を切った。 何を言う間もなく、怯える男を神崎は殴り付けた。 「が、がはっ…!」 「俺はこれから何度お前を殴れば良い」 激痛に悶絶して床に転がった。 腹部を押さえ床を這う。 俎板の上の鯉だ。 ひゅうひゅう細い息を吐き、それで尚出口に手を伸ばす 男の腹を情け容赦なく蹴り飛ばした。 「う、うぐ…」 「1回か?それとも16回か?」 靴の爪先が顎を持ち上げた。 狭まる気道に咳き込み、しかし追い詰められた男は自棄になって笑った。 「ふ…ハハハッ!親や部下は死に…お前だけが生きている…!」 「黙れ」 「皆お前を護って…馬鹿馬鹿しい!お前は…大した感情もない癖に…!」 テイラーの皮膚を弾丸が裂いた。 悲鳴を上げ、出血する箇所を押さえる。 打って変わって慄く男を、恐ろしい圧が襲った。 退路を閉ざす3人の銃口が、一斉にテイラーに向けて照準を合わせていた。 「畜生…」 吐き捨てる。 歯を食い縛り、テイラーは拳を床へと叩き付けた。 「お前は悪魔を作ったんだ…バート・ディーフェンベーカー…!!」 咆哮が虚しく館に反響した。 醜く蠢く。 こんな、 こんな下らない人間に。 寝屋川の指先が痙攣する。 脳裏に戦場を共にした部下を浮かべ、同時に彼らの悲惨な最期へ憤る。 「庵」 はっと雇用主の言葉に指を止めた。 「撃たなくて良い、彼の地獄は此処だ」 唇を舐め、M4を肩に担ぐ。 もう黙って転がる男に歩み寄るや、寝屋川は蹲る男の腕を掴み上げた。 「はっ、離せ…」 「さようならミスター・テイラー。残りの人生、只管に嘆き苦しめ。願わくば来世で、貴方に幸あらん事を」 「巫山戯るな!!お、俺は…俺はこんな所で!」 往生際悪く、暴れる男が再び転がり落ちた。 咳き込む姿に苛立ち、寝屋川が再び突撃銃へ手を掛ける。

ともだちにシェアしよう!