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episode.9-2
「…お前の、個人的な感情か?」
「ええ」
何ら偽る事無く戸和はするりと口にした。
寧ろ彼の身元すら、尋ねていれば答えていたのかもしれない。
それ程清々しい態度に、萱島は少々気圧された。
「そうですね、仰る通り」
甚く慈愛に満ちた指先が、眠るジェームズ・ミンゲラの頬を撫でる。
「俺はジム…失礼、この男の消息が確認出来ればそれで良かった。テイラーに加担する気も、貴方がたに加担する気も…さらさら無かったんですが」
姿勢の良い背中を見詰める。
一体幾つの重荷を、其処に背負っていたのか。
「1年がこれ程長いとは予想外でした。序でに萱島さん、貴方も」
「…ん?何、俺?」
「彼処まで躊躇なくプライベートに踏み込んで来た人間は初めてだったので」
あ…そう。
萱島は申し訳ない様な、恥ずかしい様な心持ちで押し黙った。
「ただ、俺が双方を裏切ったのは事実ですから」
淡々とまるで記事を読み上げるキャスターの如く。
青年は事の終わりと、自らの立ち位置を述べた。
「煮るなり焼くなり好きにして下さって構いませんが…1つだけ頼みがあります。彼の最期だけは、俺に看取らせて欲しい」
寝具に身を横たえたジェームズを。
たったそれだけ、恰も唯一の帰る場所の様に見詰める。
青年の涼やかな瞳を、萱島は初めて哀しいと感じた。
「…何言ってんだお前」
心から吐き捨てた。
怪訝な表情で戸和が面を上げた。
対して床を睨め付け、それでも感情任せに萱島は続けた。
「テイラーの糞ったれはどうでも良いし知った事じゃないが、此処を裏切ったってのは…どうやったって間違ってるだろ、来て数ヶ月の俺にでも分かる」
頭では何やかんや考えていた。
努めて客観的に、現状を整理しようと。
然れど、実質は目の前の青年をただ引き留めてやりたい。
それだけに躍起になっていた。
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