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episode.9-3
「本部に襲撃があった日、お前言ったな。俺が居て良かったって」
あの日現場を後にしながら、零れ落ちた台詞を。思い返した。
「その前は…立て込んでる中、態々車で俺の家まで迎えに来た。不必要な労力を、どうしてお前は割いた?」
戸和は黙っていた。
彼に何か、こんな説教じみた形で話をするなど。一生無いと思っていた。
「心配してたんだろ。お前なりに、いつも何だかんだ気に掛けて、見てたんだろ。その気持ちの、何処が裏切りなんだよ」
純真に射抜く。
視線が部屋の中心でかち合った。
「行くなよ戸和」
いつも隣に存在した、唯一無二の部下。
それが消えたメインルームを、思い描く事が出来なかった。
「お前の居場所は此処だろ」
拳を握り締めた。
その存在がどれ程尊いか。一体どれ程、必要とされているのか。
萱島は全て端から目の前に並べてやりたい位だった。
「…どうして貴方は」
沈黙を貫いていた部下が口を開いた。
「其処まで俺を引き留めたいんですか」
漆黒の宝石に映り込んだ萱島が、虚を突かれて動きを止めた。
「どうしてって…」
そんな物は。
言い淀み、眉根を寄せた。
理由なんてごまんと在った。
しかしそれらを集約して、根幹を辿れば同じ事に気が付いた。
「お前の事が、好きだからだよ」
自然に口から抜け落ちていた。
声に出してからはっとした。
慌てて顔を上げる。まじまじと刺さる視線に、萱島の思考は半ばパニックに陥った。
「や、ごめん、間違えた…ちょっと、今のは…」
「何ですって?」
「待て待て、無しにしよう。何も言ってない」
こんのヘタレが。
萱島は自分自身呆れ、内心で罵詈雑言を浴びせた。
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