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episode.9-12
理由も分からず、兎に角父親の物というだけで嫌がるその様が。
まるで反抗期真っ只中の子供と相違ないのだから。
「はは…あっはっは!」
「何笑ってんだてめえ」
「遥、君…かわいいな!」
「轢き殺すぞ」
暫くその場で笑いが止まらなかった。
不機嫌そうな面が、益々引き金を引いている。
一頻り笑って満足した後、御坂は花弁に包まれた墓を見た。
バート、君はどうやら非常に嫌われている様だ。
まさかそんな台詞を、言ってやりたくて堪らなくなるなんて。
「あー可笑しい、最近で一番笑ったよ」
「お前の感覚ズレてるからな」
「君に言われたくない…」
御坂はふと気配を察して視線を上げた。
中庭の木々の隙間から、恐る恐る覗く来客が見えた。
未だ此方を警戒しながらも、会釈を寄越す相手に微笑む。
「萱島くん」
神崎も振り向いた。
認めた部下の姿に首を傾けた。
乾いた芝生を踏み、現れた萱島は再度挨拶を寄越す。
そうして距離を置いては立ち止まり、手持ち無沙汰に地面を見詰めていた。
「どうした」
「…副社長に偶々聞いて、ついでに」
増々首を捻る神崎の前、落ち着きなく足元の石を蹴る。
傍からそのやり取りを目に、御坂がまた笑った。
不器用な人間ばかりだ。
否、器用な人間など端から居ないのだ。きっと。
研究所を後にした神崎は、部下と連れ立ち駐車場へ向かった。
地面がコンクリートに変わる頃、並んだ相手に指先を掴まれる。
「何だよ」
「…別に」
「近くに用事でもあったのか」
萱島は曖昧な返答をした。
そうして地面の影を見詰めたまま、ぼそぼそと告げていた。
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