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episode.9-13
「いい加減、自分で家を捜そうかと」
「そうしたいならそうしろよ」
相も変わらず、優しいのか素気ないのか。
微妙な間を突いた返しである。
「そもそも社長が!…俺の家を勝手に引き払うから」
「お前の家の付近、面倒そうな奴が彷徨いてたからな」
霧谷の事か。
萱島は顔を顰めた。
興味がない癖にこういう配慮を回すのが、この男の質の悪い所だ。
「社長は…」
灰色の瞳と漸く視線が合う。
「御坂先生が亡くなったら、悲しいですか」
「急に何だ」
「本郷さんが亡くなったら?」
脈絡なく問う部下に、脚を止めた。
「悲しいかもな」
「泣くほど?」
「いいや」
「…俺が死んだら?」
何が言いたいかも分からない。
矢継ぎ早に質問を投げる。
未だ手を掴む子供の髪を、神崎は労るように撫でてやった。
「出て行きたく無いなら出て行くな」
萱島は真意を図られた様に黙った。
「彼処に居ろ」
また焦点が床へと落ちる。
前髪が目元を隠す。
きっと表情は不機嫌に違いない。
「社長なんて嫌いだ」
「そうかよ」
「俺に興味もない癖に」
予想通り、次には神崎を睨みつける。
「いつか女性に刺されてしまえ」
「それは義世だろ」
萱島は我儘な自分を自覚していた。
不必要に執着している事も、おまけに見返りを求めている事も知り、そのストレスすらも神崎に投げ付けていた。
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