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episode.9-16
「元気無いですね」
「元気もりもりですが。何か」
「仕方ない…俺の秘技を明かす時が来た様だ」
目一杯低い声を作る部下に動きが止まる。
秘技だと。
千葉はすっと眼前に左手を晒した。
掌を天井に向ける、親指の付け根辺りに10円玉が乗っかっている。
萱島の視界で彼は右手を添え握り込んだ。
様に見えた。
次にそれを開いた時、10円玉は消失していた。
「えっ…えーーっ!」
案の定主任は完璧なリアクションを寄越した。
箇所を凝視したまま、勢い良く席を立つ。
部下は満面の笑みでそれに応え、両手を掲げてみせた。
「千葉どうやった…どうやったんだよ!」
「残念だったな主任、これは俺の家系に代々伝わる秘術故…おいそれとは教えられぬ」
ニヒルに口元を吊り上げ千葉は退いた。
そうして種明かしも無しに去って行く。
単純な萱島の思考は、すっかりそっくり奪われてしまった。
半端な姿勢で遠ざかる姿を見ていたが、行き場を失くした感情は隣の部下へと向かった。
「戸和、戸和って、今の。今の見てただろ」
肩を揺さぶられる。
迷惑極まりない。
戸和は画面を見たまま眉間に皺を寄せた。
「凄くないか、どうやってんのかな」
「…残像の利用なら萱島さんでも出来ますよ」
こういった時律儀に返してくれるのが彼だ。
きょとんと目を瞬く主任の手前、戸和は左手だけを差し出した。
「……」
指先のクリップに視線が吸い寄せられる。
上司は子供の様に黙ってじっと見ていた。
器用に片方で仕事を処理する傍ら、戸和は掌を返した。
何時の間にかそれは忽然と消えた。
「は…」
意味が分からない。
思わず眼前の手を掴み、彼方此方調べ始めた。
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