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【3】
「執事長っ!」
呼び止める使用人を振り切って、駈は灰色の絨毯が敷かれた大階段を一気に駆け上がると、輝流の寝室へと向かった。
彼の寝室は廊下の突き当りにあり、他のゲストルームに比べ広くゆったりとした作りになっている。
もちろん室内にはトイレ、バスルーム、ウォークインクローゼットが完備されており、壁も防音処理が施され、第三者が彼のプライバシーを侵害することはない。
木製の豪奢なドアを開け、彼をベッドに横たえると、ドアに鍵を掛けて窓にかかったレースのカーテンを手早く引いた。
その動きには一切の無駄がなく、執事長である駈の力量を見せつけられる。
ベッドに横たわり眠っていた輝流だったが、予想以上に早く抑制剤の効果が薄れ始めた。
再び苦しそうに胸を喘がせ、体を丸めるようにして眉を寄せる輝流は、駈が動くたびに細い体を小刻みに揺らしていた。
「十五分そこそこしか効き目のない抑制剤に法外な値段をつけるとは……。国も製薬会社から甘い汁を貰っているようだな……」
吐き捨てるように呟いた駈は、糊のきいたシーツの上で身をくねらす輝流に目を細めた。身じろぐたびにふわりと香る甘い匂いと共に、メス特有の匂いが混じり始めていた。
輝流が身につけていたグレーのスラックスの股間は蜜が溢れ、ぐっしょりと濡れていた。
自然とその場所に手が伸びてしまうのは、わだかまった熱を吐き出してしまいたいと思う生理的現象からなのだろう。
「輝流さま……」
すっかり陽が落ち、暗くなった部屋に明かりを灯すことはなかった。
駈は着ていたスーツの上着を脱ぐと、ネクタイを乱暴に引き抜き、キングサイズのベッドに腰掛けた。
「駈……。駈、どこ?」
「ここに……」
「俺、病気なの? チ〇コが……おかしくなりそう」
自身のワイシャツのボタンを外しながら眩しそうに目を細めた駈は、焦点の合わない目でそう訴える輝流を見つめて口元を緩めた。
「――楽にして差し上げますよ。My Bride ……」
低く艶のある声で呟いた駈は、輝流の上に覆いかぶさると制服のブレザーを脱がせ、ネクタイを引き抜いた。
「や……。駈……な、何をするっ」
突然の彼の行動に驚いた輝流は、身を強張らせて小さく声を上げた。
抗おうとする両手を頭の上に纏め上げ、それをネクタイで縛り上げると、駈は輝流のワイシャツのボタンをすべて外し、ベルトを緩めて前を寛げた。
スラックスまで達していた蜜は、薄っすらとペニスを透けさせるほど下着をぐしょぐしょに濡らしていた。
その場所を愛おしそうに指先で撫で上げた駈は、満足気に笑みを浮かべた。
「こんなに濡らして……。あの男に触れられて感じたんですか?」
「違う! これは……違うんだっ!」
「何が違うんです? ほら……乳首もこんなに硬く尖らせて、貴方がこんなにいやらしい方だとは思いませんでしたよ」
「駈っ! いい加減にしろっ! 俺は……、ちがっ! あ、あぁっ……!」
ピンクに色づいた輝流の胸の飾りにやんわりと歯を立てた駈は、舌先でねっとりと掬うように舐めた。
「あぁ……やだ。それ……はぁ、あ、あぁ」
頭上にある羽枕を掴み寄せるように、体を伸ばした輝流は鼻にかかった甘い声を上げた。
つとめて触れたことなどないその突起は、今や性感帯の一つとなり輝流を苦しめた。
唾液を纏わせながら舐める駈は、上目遣いに輝流を見つめる。
整えられた眉、野性味を帯びた瞳、そして彼から発せられる香りに性欲を高められ、輝流はわずかに残された理性を繋ぎ止めることで必死になっていた。
それを手放してしまったら、主と従者としての関係は壊れる。
しかし、あの品行方正で真面目な駈がどうしてこのような暴挙に出たのか分からずにいた。
野宮家に絶対的な忠誠を誓い、両親からの信頼も厚かった彼。そんな彼が今、輝流を組み敷いている。
「はぁ……や、やだぁ……っ」
「いい香りですよ。これこそ、私が求めていた血……。よくぞ今日まで発情せずにいてくださいました」
「な、なに、言ってる……んだ! お前……何か、知って……んあっ」
「強気な輝流さまは嫌いではありませんが、今夜だけは淑やかにお願い出来ますか? 私たちの初夜――ですから」
「初夜……って! お前、何を考えているっ」
体を捩って暴れる輝流の細い腰を押さえ付け、駈は下着ごとスラックスを引き抜いた。
ぶるんと勢いよく跳ねたペニスはたっぷりの蜜を纏い、輝流の腹に飛び散った。
大量に溢れた蜜は後孔にまで流れ、輝流自身も触れたことのない禁断の蕾をしとどに濡らしていた。
そこは高まった性欲のせいでヒクヒクと痙攣し、まるで何かを求めてやまない生き物のようだった。
駈は彼の両脚を広げ、その間に体を滑り込ませると自らのベルトを緩め、前を寛げた。
下着をずらし、ウェスト部分から引き出した彼の楔は太く長く、そして異様な形をしていた。
陰茎の根元にはぷっくりと膨らんだ球状のコブがあり、赤黒く変色している。
「な……っ! 何を、する気だ!」
「発情してもなお、まだ自我をお持ちとは……。一筋縄ではいかないとは思っていましたが、繋がる前にすべてお話したほうが良さそうですね」
「話って……何だっ!」
叫んだ輝流の唇に人差し指を押し当てた駈は、彼の顔を挟むようにベッドに両腕をつくと真上から見下ろした。
「信じる、信じないは貴方次第ですが、もう動き出した運命には抗えないという事だけは理解して頂きたい」
「運命って……何だよ!」
駈と触れ合っている肌が熱くて堪らない。互いの股間が擦れ合うのも、気持ちがいい。
一人で慰めるのとはレベルが違う。それに加え、彼の匂いに敏感に反応してしまう体が勝手に揺らめくのを止めることが出来なかった。
真っ直ぐに見つめる駈の目には嘘はない。いつもそうだった。今までも……そして、今もそうだと信じたかった。
輝流は熱い息を吐きながら、乱れた前髪の間から覗く妖しい光を湛えた駈の目を見据え唇を開いた。
「――話せよ。お前が知ってること、全部……話せ」
「かしこまりました。ご主人様……」
薄っすらと笑みを浮かべた駈は、輝流の唇から覗いた赤い舌に応えるように深く唇を重ねた。
*****
それから、わずか数分後――。輝流の理性は呆気なく崩壊した。
駈から与えられる濃厚なキスと香りに思考が定まらなくなり、視界も涙で滲んだままハッキリしない。
触れてもいない場所は常に射精感を催し、腰を揺らさずにはいられないほどだった。
「はぁ……も、ダメッ! 駈ぅ~っ」
自分でも驚くような甘い声をあげて、従者であるはずの男の名を呼ぶ。
輝流は十七歳になった今でも男女ともに性交渉の経験はなかった。さすがに自慰は週に二~三度してはいたが、特別な相手がいるわけでもなかったし、性に関しては疎い方で淡白であると自負していた。
それがどうだろう……。幼い頃から常に一緒で、一番近い位置にいる駈にすべてを委ねようとしている。
野宮家の当主が執事に対してセックスをせがむ姿はパワハラとも捉えかねない。しかし、誘われている駈の方は悪い気どころかそれが当たり前であるかのような顔で、大人の余裕を見せつける。
「輝流さま。何がダメなのですか? ハッキリ言っていだたかないと私とて対応出来ませんよ?」
「意地悪ぅ~! お前の……欲しいっ」
「何をご所望ですか?」
滑らかな肌の感触を楽しむように腰のラインを撫でる駈の手の動きに、輝流はビクンッと体を跳ねさせた。全身が性感帯にでもなってしまったかのように、どこもかしこも気持ちがいい。
それを心得ているかのような駈の手も、輝流の様子を窺いながら愛撫を続けていく。
「――挿れて」
「何をですか?」
「俺を……孕ませて。お前の子を……産みたい」
駈は堪らないという笑みを浮かべ、輝流の首筋に顔を埋めた。
自分の下で両手を拘束されたまま腰をくねらす主の姿は酷く煽情的で、駈の方としてもすぐにでも繋がりたいという気持ちが膨らんでいた。
本格的に発情期に突入したΩは子を成すことしか考えられなくなる。それが意にそぐわぬ相手だったとしても体は意志を凌駕し、求め、貪る。
学校に到着するのがあと数分遅れていたら……と考えただけで、駈はゾッとした。
あの卑しいだけのクズ男である晴也に犯され、彼の子を孕んだ輝流の姿を想像しただけで嫉妬と怒りに狂いそうになる。
(早く、自分だけのモノにしてしまいたい……)
体を繋げ、この首筋に消えることのない噛み痕を刻めば済むことなのだが、なぜかこの時になって踏み切れない自分がいた。
時に兄のように、または父のように慕ってくれた輝流が脳裏にチラつき、今まで築いてきた信頼関係が音を立てて崩れていきそうで怖かったからだ。
自分はずっとこの時を待ち続けていた。でも、彼は何も知らずに目の前に突き付けられた運命を受け入れなければならない。まだ幼い輝流の事だ。そう簡単に現実を受け入れるとは思えない。
離れることが出来なくなってから、話すことも触れることも、ましてキスも許されないなど駈にとって耐えられない事だった。それは安易に予想出来ていたことなのに、覚悟だって十七年前に決めたはずなのに。
「輝流……」
耳元で愛しい者の名を呼ぶ。その声に応えるように長い睫毛が震え、潤んだ栗色の瞳が期待を込めて見つめ返す。
「駈……」
甘えた声で名を呼ぶたびに、駈を誘うかのように甘い香りがぶわりと匂い立つ。その香りは輝流のフェロモンそのもの。それに抗えるαはまずいない。
αとΩ――番うために出逢う運命の性。
今、この発情期に交わることを逃せば、次の発情期がいつ訪れるのか分からない。三ヶ月周期が一般的ではあるが、輝流の場合は普通のΩとは違っている。
特異な体質で生まれた彼は、この時期だけΩになる。発情期が終われば元のαに戻ってしまうのだ。
そうなると妊娠率は格段に低下する。α同士のカップルが子を成しにくいという結果が学会でも立証されているというのは頷ける。
焦ることは何もない。だが、駈はこれ以上輝流を危険に晒したくなかった。
幼い頃からいたずら目的で晴也に部屋に連れ込まれるのを何度も目にしてきた。
そして今日の事件は、起こるべくして起きた事だと言えよう。もし、輝流が両方の性を持つ特異体質であることが晴也に知れれば、利用しようと企むことは間違いない。
それをネタにこの野宮家を乗っ取ろうとする可能性は大いに考えられる。野宮の血を絶やさないことが隼刀との約束だった。
人間であって人間でない。獣であって獣でない。どっちつかずの人外である野宮の血は駈と輝流が守っていくしかないのだ。
「――十七年、待っていたんだよ。俺のモノになってくれるか?」
「駈……。早く、欲しい……。お前の精子……頂戴っ」
輝流の両手を不自由にしていたネクタイはいつしか解けていた。駈の背中に回された輝流の手が焦れて爪を立てる。その痛みさえも心地よく感じるのは、彼を愛してやまないからなのだろう。
どこまでも一方的な愛――。
溢れた蜜でしとどに濡れた蕾に指を這わすと、輝流はぎゅっとしがみついた。
「ここに……俺を受け入れてくれますか?」
クチュリ……。
咲くことも知らない未開の蕾に指先をゆっくりと沈める。そこは何かを待ち受けるべくしっとりと濡れ、駈の指を包みこむように受け入れた。
きついのは処女ゆえ仕方のないこと。交わりを知らないこの蕾に凶暴な楔を穿ち、咲き散らすことを許されたのは許嫁である駈だけなのだ。
円を描くようにゆっくりと解していく。発情期にはオスを受け入れるために自然と蕾は柔らかくなり、どんな楔でも受け入れるように体が順応すると聞く。しかし、駈は輝流を傷付けたくはなかった。
たとえ自我を失っているとはいえ、愛らしい顔が苦痛に歪むのは見たくない。
「――ほら、だんだん柔らかくなって来た。ここで繋がるんだよ」
「んぁ……っ。き……も、いいっ! はぁ、はぁ……もっと、奥、擦って」
「欲張りなお口だね……。でも、お前が望むなら俺は何でもしてあげる。ほら、こうして……。もう三本も咥え込んでしまったよ? 指じゃ不満?」
「あぁ……そこ……イイッ! あ、あっ……」
長くしなやかな駈の指が根元まで沈められ、クチュクチュとわざと音を立てて中を掻き混ぜる。
指をバラバラに動かし、しっとりと絡みつく粘膜を楽しみながら、蜜を溢れさせているペニスをそっと口に含んだ。
「んあっ! ダメ……ッ! あ、あぁ……イッちゃう!」
蜜を舐めとる様に舌を絡めながら、フルフルと震える先端にやんわりと歯を立てる。その衝撃に指を食んだ蕾がキュッと締まった。
「ダメ、ダメ……! イッちゃうから、ダメッ!」
「好きなだけイケばいい……。お前は俺の子を孕むことだけを考えて……。そう、快楽に身を委ねて俺の愛だけを糧に生きればいい」
「愛……?」
「そうだよ。愛がなければ子は成さない……」
駈の言葉に初めて黙り込んだ輝流は、唇を噛んだまま顔をそむけた。
その目尻から流れた涙の意味――。
嬉し涙なのか……それとも。
発情しているにもかかわらず、そんな切ない表情を見せた輝流に苛立ちを感じた駈は、中に沈めた指をグリっと抉る様に奥に突き込んだ。
「んはっ! あ、あぁ……んっ」
ビクビクと腰を小刻みに痙攣させ、ペニスからトプリと白濁交じりの蜜を溢れさせた輝流は、焦点の合わない目で天井を見つめたまま絶頂を迎えた。
偶然にも彼のいい場所を探り当ててしまったようだった。
内腿を痙攣させたまま口をパクパクとさせている輝流に更に追い打ちをかけるように、ペニスを上下に扱き上げながら舌先で鈴口を抉る。
「んあぁぁ……あ、ああ……変に、なる~! ヤダ……怖い……っ。怖いよ、駈……ぅは……んんっ」
「怖くないよ。お前には俺がいる……。ほら、思い切りイッてごらん……。すべて飲み干してあげる」
「や……っ。体……熱い! 怖い……っ! んは、はぁ……は、はっ。ダメ……また、イッちゃう……イク……イク……ッ」
駈の口内でわずかに膨らんだ輝流のペニスが熱を発する。ドクドクと脈打っているのは射精が近い証拠だ。
駈は少し強めに扱き上げ、カリの部分を唇でキュッと締めた。
「いや……イヤッ……あぁ、あ――ひゃぁぁぁぁぁっ」
背を弓なりにしてシーツから浮かせ、ガクンと大きく痙攣した輝流は駈の口内に大量の精を吐き出した。
発情中のΩの体液はすべてが甘い。駈は喉に張り付くほど濃い白濁をゆっくりと呑み込み、唇の端から溢れたものを舌先で掬い取るようにして舐めた。
精を吐き出しても尚、その硬さを維持したままのペニスの残滓を吸い取る様に唇から引き抜いた駈は、ぐったりと力なく横たわる輝流を見上げた。
「美味しいよ……。輝流、お前は誰にも渡さない……。ずっと俺の側にいてくれ……」
体を起こした駈は彼の中に沈めていた指をゆっくりと引き抜き、自らの楔を軽く扱きながら体を輝流の腿の間に滑り込ませた。
しっとりと艶を含んだ色を見せる蕾に赤黒く充血した獣のそれを押し当てると、躊躇なく腰を押し進めた。
「んあっ!」
元来排出器官として使われていたそこに女性の腕ほどある太さのモノが薄い粘膜を割り開きながら入っていく様は異様だった。
無意識に息を詰め、全身を強張らせる輝流に体を重ね、駈がキスを繰り返す。
「息、吐いて……。そう、いい子だ……。大丈夫、怖くないから」
「あ、あぁ……太いの……入ってく、る。壊れ……ちゃうっ」
「壊れないよ。輝流の蕾は柔らかく広がって俺を迎えてくれている。もう半分入った……」
強烈な圧迫感に顎を上向けて酸素を取り込もうとする輝流が色っぽくて、つい意地悪をしたくなる。
処女の中は繊細で、すぐに動くと傷付けてしまう可能性がある。しかし駈は容赦なく腰を突き込み、まだ馴染んでいない内壁を擦りあげるように腰を揺らした。
「あん……っ、うご……な、ぃで! なか……でおっきいの……ゴリゴリって……あぁ、イッちゃう、イッちゃうからぁぁぁぁ!」
ビクビクと痙攣し、重なった駈との間に吐精した輝流は蕾に突き刺さった楔を思い切り食い締めた。
「ひぃぃぃ……! また、イク、イク……イッちゃう~!」
連続してイキまくる輝流の体はすでに蕩け、駈の長大な楔を根元まで受け入れるまでにそう時間はかからなかった。茎の根元に出来たコブ状の亀頭球でさえ難なく呑み込んだ輝流の中には溢れるほどの白濁が注ぎ込まれていった。
αの種を受け入れたΩの体は男であっても容易に変化する。存在するはずのない子宮が体内に生まれ、そこに精子が注ぎ込まれれば子を成すことが出来る。
駈は額に汗を滲ませて、主である輝流の細い腰を掴んだまま自らの腰を振り続けた。
いつの頃からか、窓の外には分厚い雲が立ち込め、遠雷が聞こえ始めていた。
二人のこれからを予感する空――いや、この雲を振り払う力を育めという天からの暗示か。
人払いがなされた輝流の部屋に絶えることなく散らかる二人の息遣い。そして、濃厚な性の匂いと甘い花の香りが混じり合う。
肌がパンパンと激しくぶつかり合う音が幾度となく続く。
獣の咆哮にも似た呻きと叫び、そして甘さを含んだ嬌声を重ねながら二人の夜は更けていった。
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