15 / 36

15

「...それ、俺の」 小さめの声で遠慮がちに、そのペンが俺の物であることを伝える。 緒方は今日初めて俺の方を見た。そしてボールペンに視線を落とす。そしてまた俺の方を見た。 「...そっかコレ、“ハヤテの”なんだ」 その瞬間ぞくぞくっと背筋に悪寒が走る。彼は昨日見た、黒い笑顔をこちらに向けていた。そして俺の耳元に顔を近づける。 「じゃあ今日はこのボールペンが“お前の”だな」 彼はそう、俺だけに聞こえる声で小さく囁いた。何故だか鼓動が速くなるのを感じた。 「...返せよ」 「うん、待って」 緒方はボールペンを返してくれなかった。 「ちょっと貸してほしいな」 そう言って彼はそのボールペンを使って女子達に問題の解説をし始めた。 たぶん彼はそのボールペンに催眠術をかける気だ。 しかし、そんなに危機感は覚えなかった。なぜなら対象は無機物であるから。昨日とは状況が違うのだ。いくら緒方でも無機物であるボールペンを、俺の体の1部にできるとは思わなかった。

ともだちにシェアしよう!