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「...それ、俺の」
小さめの声で遠慮がちに、そのペンが俺の物であることを伝える。
緒方は今日初めて俺の方を見た。そしてボールペンに視線を落とす。そしてまた俺の方を見た。
「...そっかコレ、“ハヤテの”なんだ」
その瞬間ぞくぞくっと背筋に悪寒が走る。彼は昨日見た、黒い笑顔をこちらに向けていた。そして俺の耳元に顔を近づける。
「じゃあ今日はこのボールペンが“お前の”だな」
彼はそう、俺だけに聞こえる声で小さく囁いた。何故だか鼓動が速くなるのを感じた。
「...返せよ」
「うん、待って」
緒方はボールペンを返してくれなかった。
「ちょっと貸してほしいな」
そう言って彼はそのボールペンを使って女子達に問題の解説をし始めた。
たぶん彼はそのボールペンに催眠術をかける気だ。
しかし、そんなに危機感は覚えなかった。なぜなら対象は無機物であるから。昨日とは状況が違うのだ。いくら緒方でも無機物であるボールペンを、俺の体の1部にできるとは思わなかった。
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