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緒方が改めてしっかりとボールペンを握りしめる。
ふっ、まだまだ余裕だ。なにも変わったことは無い。やはり俺の予想通り彼は無機物には催眠術をかけられないのではないか?
俺はペンケースから蛍光ペンを取り出し、英単語にアンダーラインを引いた。
「ん?あれ、黒インク出ない...」
俺の横で緒方がインクが出ないことに気づいた。
そうだ、このボールペンの黒インクはまだインクが残っているのにも関わらず、インクが固まって色が出ない。黒なんか滅多に使わないから、俺はあまり気にしなかった。
しかし彼は解説のために黒インクを使うらしい。賢い人って何故か参考書をボールペンで解くよな。意味わかんない。
緒方は俺のボールペンを上下に振ったりしている。
無駄無駄。早く返してくれよ。
「出なくなったボールペンってインクの部分を温めたら出るようになるよね」
くそっ、林!!なんて余計なこと言いやがるんだコイツ!!
「あっ、それわたしも聞いたことあるー!」
周りの女子も林の意見に同意する。緒方もうんうんと頷いた。
緒方はボールペンのインク部分を温めるつもりだろう。ボールペンの先端部分を外し、インクの入った芯をぎゅっと握り込んだ。
そして彼は、俺のほうを見ずににやっと笑ったのだ。
「...!?いっ!?」
じわっと、下腹部に伝わる暖かな感触。
う、嘘だ。こんなのって、ない!
彼は優しく芯を握り込む。もう片方の手も重ねた。
暖かさがさらに増す。
それは明らかに催眠術であった。緒方は無機物まで俺の体の1部にしてしまったのだ。
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